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「嫌だァァァ! 殺して! 殺してくれぇ」
実に哀れに死を懇願しているのは先程倒れた彼。 流石に家族を何度も拷問されている映像を見たら夢でもこうなるか。
一度ここで覚ましてやろうと自分の指を切り顔に飛沫を作った。体を揺する。
先程のことが夢だと自覚したのか、それとももう叫ぶ気力も失ったのかは分からないがとりあえずは萎れたとだけ表しておこう。
俺は記録記帳にしきりに叫んだ後衰弱。とだけ記した。何か書かないとうちの上司は怒るのだ。
「随分いい眠りだったようだな? 情報を吐く気になったなら大歓迎だぜ」
手を飛沫を作った場所へと移動して視線誘導させた。マルチはまた悪夢を見たように顔を青くさせている。無意識に口角が上がり高揚した。
──ああ、その顔をもっと見せろ。
ゾクリとした感覚は俺の脊髄を伝って脳へと広がって例の獣が出てきそうになる。
「お、お前その血」
「一つ言える事はあんたの選択しだいで正夢にしてやるということだけ」
手足が少し震えている。生まれたての子鹿とはまさにこの事。
彼は一呼吸置いた後ポツリポツリと話しだした。
一つ目は彼が主犯格だということ。二つ目は基地はここから離れた西の森だということ。三つ目はここに爆薬を投下して政府を打ち負かそうという魂胆らしい。
「ご協力感謝する。家族のことは残念ながら本当なんだ。可愛らしかったなあ」
「嘘だ……嘘だ! お願いだからホントの事を言ってくれ! 夢だって言ったじゃないか」
勿論嘘だ。が俺の能力のせいで正常な判断が出来なくなった彼はマリオネットに等しい。
「お前に一つチャンスをやろう。お前はきっと死罪だろう。しかしそこには銃があるんだ。まあ何とは言わねえけど、判断はまかせる」
マルチは銃に手を伸ばしゆっくりとこめかみに銃口を押し付けた。どちらの物か分からない息を飲んだ音は辺りへと熔けゆく──遂に引き金を引いた。
軽快な音と共に血を吐き散らす彼はとても美しい。床に赤シミが伸びていて……それでいて彼は最後に大きく痙攣した。もう動かない。
恐怖は時として奮い立たせ、時として己を狂わせる。どちらに転がるか分からない、いわば博打の様なもの。
彼の場合は悪い方に転がっただけだ。
「久々に楽しかったな。あ、そうそう。あんたの家族は無事だぜ。もう聞こえてねえかな? 」
楽しませてくれたが少し呆気ない。もう少し悪夢に耐えたら解放したのに……。
後で掃除を頼もう。そう決めて部屋を出た。
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