そこに佇む狐有り ページ26
むしろ日課だった。
白い隊服が楽しそうに楽しんでいる。
彼等からちょうど死角になる一番に座って、見詰める。ただそれだけの事。
「狐のあんちゃん、おめえなんか飲むかい? 」
ずっと一人で何もせずに座っている僕が哀れに移ったのだろうか、酒の匂いが酷い老人がウィスキーを煽りながら話しかけてきた。
迷惑だし、確認ができない。
そう思っていたら僕の視線の先に気づいたらしい。老人も同じ方向を見て会話を続行させてきた。
「ん、ありゃあ昇華隊だなあ。狐のあんちゃん誰か想い人でもいるのか」
「どうしてそんな考えに行き着いたの? それにその呼び方はやめて」
「じゃあ坊主だな」
彼はどうやらよっていて正常な判断が出来ないらしい。青年の呼び名から一気に歳が降下している。
狐に関しては僕が狐面を付けているからだろう。
こんな目立つ格好をして彼らにバレないのは日々通いつめて賜物だ。
「何時もはもう一人、灰色の髪をした男性が居るんです。皆と楽しそうに、喜びを分かちあっていたんです。でも最近は居ない」
「なんだか知らねえが声掛けて見りゃあ済む話じゃねえか。そんな身なりしてるからどう思われるかは知らねえけどよ」
老人の言う通りだ。聞けばそれで終わり。
元々彼の様子を見るために此処にずって座っているのだから居ない、と言われればそこまで。
だから、だからこそ聞けない。聞く勇気が僕には無い。
馬鹿な話だ。
「そうですね、でも此処に座っているだけで満足なんです。十分過ぎるんです」
「……そうかい、まあ頑張るこったぁ」
僕の意思を読み取ったかのように大人しく引いていく老人、その背中は何だか広い。
また昇華隊に視線を戻す。金髪の男性の隣には誰かが居るように一つ席が開いている。
あれは彼の為に開けられた席。それを見ると皆慕っていたのだなと思う。
──本当は知っていた。
彼はもう居ないことを、感謝を伝えることはもうできないことを、あの日の決着をつけることは無理だということ。
全てを理解していた。
「きっと貴方は幸せだったんだ」
でも貴方が居ないと周りの人は幸せそうじゃありません。
楽しそうじゃありませんよ。
「なんて言えるたちじゃないのに。人の心が分からないから正解の言葉が掛けられない」
仮に本当に貴方が幸せだったとしたら、彼らもきっと幸せだ。だから、僕の考えがあっているのなら今は幸せでは無いのだろうか?
無人の目の前の灰色の貴方に捧げたジプシーが揺れた。
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