if〜放課後の君を〜* ページ17
少し半袖では心伴いと感じてきた九月。 世間は衣替えに勤しむのだろう。
最も、自分は年中長袖かヒートテックなので衣替えの概念は無いのだが。
ロイは言ノ葉大学の大学院生。哲学を更に探究するべくしてなった訳だが基本的な課程は納めているため大学生活五年目にしてようやく環境が整ったと言っても過言では無い。
今日は午後の講義が終わった後、隣接された広い図書館によっていた。
「ここの本はあらかた読み潰したし、あっちも読んだし……ん？ 」
次に読むべく本を探してキョロキョロしているとある光景が目に付いた。
「と、取れない。どうしよう……」
ウェーブのかかった黒髪を揺らしながらあと少しで手が届きそうな本を取ろうとしていた。
「はい、これ？ 」
見兼ねたロイが本を撮って渡すと黒髪の彼女は破顔した。桃色の目を細めて、眉を思いっきり下げて感謝の気持ちを伝えてきた。
「助かりました！ やはり背が小さいと何かと不便ですね」
そんな無垢な笑顔をされても反応の仕様がない。
「僕に言われても困るよ。君は──東華高校の？ 」
制服を見ると近くの高校の子のようだった。
余談だがここの大学の図書館は何時でも一般開放していて自由に交流できるスペースや学習スペースがある。
「はい！ 伊吹若葉です。貴方は？ 」
「初対面の人に、しかも男に名前を教えるのは感心しない。と、友人が言っていた。……僕はロイ。ロイ・Ｃ・ジェイキンス」
自分も初対面の人に名前を教えてしまった。
それぐらい彼女は幼さの残る可愛さというものがあったのだ。あと伊吹さんのポジティブな雰囲気に押されそう。
さっきは気づかなかったが僕が取った本の他に、数冊抱えていた。どうやら参考書のようでどれもこれも難しそうな物ばかり。
この図書館は何故か異様に参考書の数が揃っていることで少し有名だ。
「勉強しに来たんだ。偉いね」
そう言うと彼女は訳が分からない。と言うように首をかしげている。
「普通じゃないですか？ それに大学に入る為に勉強は不可欠でしょう？ 」
少し変わっているのか、その高校の教育理念なのかは知らないが勉強は当たり前のものらしい。現代っ子にしては珍しい。
その時携帯が振動した。大方グレイからのメッセージだが見ないわけにはいかない。
「時間とって悪かった。勉強頑張って」
相手の返事も聞かずに外へ出てしまい、グレイに注意されたのはまた別の話だ。
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