・ ページ16
海水浴もいよいよ大詰め。空が赤く色づいてきたところで何故かスイカ割りが開催された。
──普通もう少し早くやるだろ。
今は皆食しているが俺はどうも進まなかった。あのみずみずしさと種が好かない。が、メロンは好きだ。楽だから。
木こりも頭痛持ちも何やかんやで楽しんでいたし。
「ま、たまにはな」
『悪くない』そう思った。距離を置かれていても、煙たがられていても楽しんでくれればそれでいい。
自分でもあり得ない思想だと苦笑した。暑さでおかしくなっているのだと言い聞かせるが果たしてどうなのだろう。
「なーに一人黄昏てんだよ」
声のするほうを向くとサトリ野郎が立っていた。
今日の恨みかもしれないと身を構えたが雰囲気でそれはないと悟った。というか今日の昼に見た事のあるやつがお前の手に二つあるのは何でだよ。
「別にもう恨んでないぞ。ほら」
「ビールって……一応貰うけどよ」
黄金色の上にホップがのっているのがまたいい。堪らずぐいっとビールを煽った。
「お前俺にわざわざ話し掛けるんだからなんかあるんじゃねえの？ 」
横目で見るとサトリ野郎はビールを飲みきってから少し間を開けて答えた。
「お前カツアゲしようとしてたんだろ。いや、そういう事を言いに来たんじゃない。何で海に連れてきたんだ？」
──ああ、何だそういう事か。
「カツアゲの口実だ。なあに、ホントだぜ」
実際は少し違和感を感じていただけ。俺は本当に大学を出ているのか、こいつらと本当はもっと感じ悪いのではないのか。そもそも俺は本当の自分なのかと。
突然不安に襲われたのだ。
だから今日を通して『悪くない』と思ったのだ。こんな事も偽物なのかもしれない。あるいは本当の世界なのかもしれない。
ただ少し、ほんのちょっと、嬉しい……なーんてさ。
これが夢ならば、架空の世界と言うならば、俺も笑顔になっていいってことだろうか。
一人で微笑んで周りに厄災が起こると騒ぎ立てられたのは別の話。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 6人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
