肆拾壱 ページ43
爆豪勝己 側
丸一日が経った。
時間が長く感じたのも、中々寝付けなかったのもこれが初めてだった。
(引越し業者あと何時間で来る･･･)
頭がろくに回らない。
あいつは大丈夫か。そんなことばかりでうるさく鳴り続ける携帯を鷲掴みにすると耳に当てる。
｢だーー｣
『爆豪勝己！』
耳鳴りがするほどの大声が穴という穴を刺激する。
つい今も考えていた奴の声に困惑しながらもう1度耳に当てる。その隣から｢まだ、寝てる方が･･･」という半分野郎の声がする。
それも構わないという風なAの声が、電話から続けてくる。
『なんで！勝手にっ、居なくなろうとしてんの！？』
｢おい、落ち着ーー｣
『ついてる！そこにいろ！バカ！』
ブチッと切れた電話。
いつからそんなに口が悪くなったのか、切れた携帯を見つめて数秒。玄関からガチャン！と音がする。
バタバタと忙しない足音が近づいてくる。
『〜、爆豪勝己！』
｢っ｣
ぜぇぜぇと肩で息をして、つい昨日死にかけた奴には思えない程の気迫に爆豪は思わずソファから立ち上がって一歩下がる。
角も爪もそのまま、出しっぱなしの個性。それもお構いなしの本人はみるみる目元も赤くする。
『なんで！勝手にどこかへ行くの！』
｢･･･あの馬鹿のとこに戻んだろ｣
『戻る！』
戻らない。とは言わないのになんで来たんだこいつは。
半分苛立ちを含んだ目を向けると負けるもんかと似合わない皺をつくる。
『私は、っ、』
堪えていたであろう涙を流す。
手を、伸ばしかけてそれをやめた。次の言葉を待った。どうせくだらないことかもしれない。それでも俺にはこいつという奴の言葉が聞きたい。
『まだ、なんのお礼もっできてないのに、それにここは、･･･爆豪さんの、家なのに、なんでっ』
ぼろぼろと床を濡らす涙。
俺はそんな顔をさせたい訳じゃない。半分野郎に悪いという気持ちを微塵も持たず、一度下ろした手を、腕を伸ばすと抱き締める。
まだ、熱いのは熱だとはすぐに分かった。
｢お礼してぇんだろ。ならよ･･･｣
言葉が詰まる。言うべきか悩んだそれを飲み込むことをやめた。
｢あのバカも！何もかも忘れて、あいつの好きなところ全部捨ててっ･･･その時は俺といろ｣
いいか、とは聞かない。これは強制だ。有無を言わせるわけがない。
腕の中で嗚咽混じりに泣きじゃくるAにあと、と付け加える。
｢幸せにならねぇとぶっ殺すっ！｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 211人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鈴音(プロフ) - 本当に泣きました。語彙力があってうらやましい限りです。これからも頑張ってください。これからも読みに来ます。 (2018年8月22日 17時) (
レス) id: ec91683ef5 (このIDを非表示/違反報告)
秋雨秦(プロフ) - 苺デラックスさん» コメントありがとうございます。そう言っていただけて良かったです。爆豪の話口調や性格は探り探りなので、良かったです。最後までありがとうございます。 (2018年3月30日 6時) (レス) id: 83d660fda4 (このIDを非表示/違反報告)
秋雨秦(プロフ) - うさたまさん» 返信遅くなってごめんなさい！コメントありがとうございます。これかも作品共々よろしくお願いします。 (2018年3月30日 6時) (レス) id: 83d660fda4 (このIDを非表示/違反報告)
苺デラックス - お疲れ様でした。私はこれを読んで号泣してティッシュの箱を1箱空にしてしまいました笑本当に泣けます。勝己の幸せになれやと、全部捨てて俺といろよがなくポイントでした。素晴らしい小説だと思います！本当にお疲れ様でした！ (2018年3月30日 0時) (レス) id: e851a42e9b (このIDを非表示/違反報告)
うさたま(プロフ) - 心が浄化されましたありがとうございますこれからも頑張って下さい！！ (2018年3月25日 19時) (レス) id: 2ffea79b62 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：秋雨秦 | 作成日時：2017年10月13日 20時
