拾漆 ページ18
一月、旦那様を待ってそんなに経った。
その間にお母様の死を知らされた。
きっと、旦那様は知っていたのだ、と聞かずとも分かった。
｢悪かった。何も言わずに･･･怒ってるか？｣
少しばかり埃っぽい家の中、月明かりだけが差す。
さっきまで寝ていたのに、もう寝れない。
旦那様の髪は少しばかり伸びている。申し訳なさそうに下げられている眉、それに許しそうになる。
が、心を鬼にする。
『怒ってます。』
｢悪ぃ･･･その･･･悪ぃ、｣
出る言葉もないらしい。
旦那様に対して恋情を伝えようと思っていたのに、素直じゃない自分がいる。
｢泣いて、いたのか？｣
『それはもちろん。旦那様が帰ってこなくて泣きましたよ。毎晩、毎晩、爆豪様の腕ーー』
｢爆豪がいいのか？｣
『は？』
突然の言葉に思わず口が開いてしまう。
｢爆豪が好き、ならば俺は･･･｣
俺は？
俺は、何ですか？
俯きの瞳に光が差すわけもなく暗く、何を思って言った事なのか私には分かるわけもなく、口元に力が入った。
『貴方が、そんなこと言わないでくださいよ･･･』
今にでも叫びそうな声を抑えるせいで声が震える。
『お母様が亡くなったと聞きました。』
｢っ、｣
『泣いた時、爆豪様がいたのに私の中には貴方様がいました･･･十日ばかりしか経ってないのに貴方を恋しく思いました。』
口に油でも塗ったかのようにするすると言葉が出てくる。
『私は、貴方に食べられても良いと思うほど好きなのです。それを、そんな風に言わないでーー』
言葉が、口が塞がる。
息がかかるほどの距離、輝いて見えるのは涙が出たせいだろうか？背中に回る手も、頬に触れる指先も全て私が望んだものだった。
｢悪ぃ｣と低い声が心地よく耳の奥に広がる。
たったの一月、一月で私はこの方から離れられなくなった。きっとそれはお互いにそうなのだ。
｢これ、貰ってくれるか？｣
『？、ぁ、簪･･･綺麗、』
銀の簪、先の方は藍色に染められている。
それを握り締めると旦那様の体に凭れ掛かる。
『毎日、着けます。』
｢ん、｣
あ、と思い出して顔を上げる。
『･･･言い忘れてました･･･おかえりなさい。』
｢ああ、ただいま。｣
旦那様、これから先何があろうと私はお側におります。どんな時でも私はおります。
それを言う代わりに私は旦那様の全てを受け入れた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 211人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鈴音(プロフ) - 本当に泣きました。語彙力があってうらやましい限りです。これからも頑張ってください。これからも読みに来ます。 (2018年8月22日 17時) (
レス) id: ec91683ef5 (このIDを非表示/違反報告)
秋雨秦(プロフ) - 苺デラックスさん» コメントありがとうございます。そう言っていただけて良かったです。爆豪の話口調や性格は探り探りなので、良かったです。最後までありがとうございます。 (2018年3月30日 6時) (レス) id: 83d660fda4 (このIDを非表示/違反報告)
秋雨秦(プロフ) - うさたまさん» 返信遅くなってごめんなさい！コメントありがとうございます。これかも作品共々よろしくお願いします。 (2018年3月30日 6時) (レス) id: 83d660fda4 (このIDを非表示/違反報告)
苺デラックス - お疲れ様でした。私はこれを読んで号泣してティッシュの箱を1箱空にしてしまいました笑本当に泣けます。勝己の幸せになれやと、全部捨てて俺といろよがなくポイントでした。素晴らしい小説だと思います！本当にお疲れ様でした！ (2018年3月30日 0時) (レス) id: e851a42e9b (このIDを非表示/違反報告)
うさたま(プロフ) - 心が浄化されましたありがとうございますこれからも頑張って下さい！！ (2018年3月25日 19時) (レス) id: 2ffea79b62 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：秋雨秦 | 作成日時：2017年10月13日 20時
