恋のﾀﾞﾝｼﾞｮﾝ脱け出して！

友であるということ*3 ページ37

しん、と聞こえてきそうな静寂が響きます。

握りしめた手を緩めると、北山さんは辺りをｷｮﾛｷｮﾛと見回しました。


「…お、終わった、のか…？」


禍々しい魔力は、どこにも見当たりません。

そっと手を離した藤ヶ谷さんは何も言わず、床に横たわる三人の前でしゃがみ込みました。


「………ふじ、」

「北山…治せるかな？」



振り返った藤ヶ谷さんの瞳には、たくさんの涙が溜まっています。


「さっきの、もう一回やってほしい。…今なら、俺も白魔術使える気がする」


ぴくりとも動かない、横尾さん、宮田さん、玉森さん。

藤ヶ谷さんが差し伸べた手は、ちいさく震えています。

北山さんはぐっと息を呑んでその手を掴みました。




「……できるよ、藤ヶ谷。俺たちなら…」




北山さんが握りしめた赤い水晶は、大きな光を放ちます。

藤ヶ谷さんの瞳から、一粒の涙が零れ落ちた時。




「【"光"は"産声"】…【"癒(ﾋｰﾙ)"】！」




視界をかき消すほどの光は、赤い水晶にﾋﾋﾞを入れても尚、輝きます。

藤ヶ谷さんと北山さんの、祈りにも似た白魔術。

光はその場の全員を包み込み、やがて柔らかに消えていきました。



「………っ」


魔力のほとんどを出し切り、ふたりは肩で呼吸を始めます。

未だ目を開けない三人を見やると、北山さんはとうとう泣き出してしまいました。


「……っ、くそ………だめかよ…っ」


横尾さんの細長い指を、そっと握りしめる北山さん。

藤ヶ谷さんは何も言わず、北山さんの髪を撫でました。


(…玉、さっき俺に話しかけてくれたのは…幻だったの？)


やさしさに溢れた玉森さんの言葉は、先程まで藤ヶ谷さんの心にしっかり届いていました。

神の力…いえ、あれは、玉森さんの持つ光でした。


(…ちゃんと話したいのに。…渉も、また……)


耐えきれずにもう一度零れた涙は、玉森さんの額に滑り落ちます。



ﾊﾟｧｯ…と、黄金色の光が見えた気がしました。


「…え、」

「…うぅっ…、起きろよ！…なぁ、玉ぁ…っ！」


玉森さんの首筋に抱きついた北山さん。

止まらない涙は、玉森さんの額へ零れ落ちます。


ﾊﾟｧｱ……と、今度は力強い、黄金色の光。


「えっ！？」

「この光は…玉の…？」


玉森さんの額に浮かぶのは、神の紋章。

そこから放たれる光が、三人の体を包み込んでいます。



「…っ、玉！帰ってこい！！」



北山さんの叫びに返事をするかのように、玉森さんの睫毛はゆっくりと動き出しました。

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