【実況者】お隣さん【ky】

お隣さんの行方 ページ22

『ん……』


目が覚めて、
時間を確認しようと傍にあったスマホを見る。


『……え！？もうこんな時間？！』


表示されていた時刻は8時15分。


あと15分で準備しなければ
就業時間に間に合わない。


二度寝したことを後悔する暇もなく、


私は最低限の準備を始める。


着替えて、寝癖を直して、
簡単なメイクをして……


もうこれでいいや！


妥協に妥協を重ねた準備を済ませ、
ヒールに足を通した。





玄関のドアを開けた瞬間、
冷たい風が体を刺す。


でも、寒さなんかに構ってられない。


早く向かおうと
足を踏み出した時、


視界の端に捉えた人影。


隣の部屋に入っていこうとする姿が見えて＿＿＿



キヨくんっ



思わず心の中で
彼の名前を叫んでいた。





急いでそちらを向くけど、


そこにいたのは
期待していた彼じゃない。



全然知らないおじさん……
しかも作業服……？



キヨくんでもなければ
キヨくんの友達にも見えない。


しかも、


その男性は
不用心にもドアを開け放っていった。


不審に思った私は
良くない事とは思いつつ


彼の部屋を覗いた。





そこには、





空っぽになった部屋。





玄関に置かれていた靴も、
廊下に置かれていた綾鷹のダンボールも、


下駄箱の上に置かれていた
黒い猫のぬいぐるみも……


全部全部……





『ない……』





そこで気づいた。


キヨくんは引っ越したのだと。


さっきの男性は、


次の住人に部屋を明け渡すために来た
清掃業者なのだと。





私が見つめる先には


キヨくんは愚か、
彼がいた痕跡さえなかった。


目の前の光景は
キヨくんの存在すら怪しくさせて、


彼との思い出は、
全部私の夢だったんじゃないかって


つい、
そんな事まで考えてしまう。









私はただ呆然と


その場に立ち尽くすことしかできなかった。

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