. ページ30
.
一瞬動きを止めたAは、再び戸棚を漁りお菓子を探した。
相変わらず、ここから見えるのは、彼女の小さな背中だった。
少ししてから、ポテトチップスと500mlの綾鷹二本を手にしながら、リビングのテーブルへと歩みを進める。
振り返ったAの顔に笑顔はなく、俯いた顔には短くなった髪がかかっていた。
手に持っていたものをテーブルに置き、ソファに深く腰掛けながら膝を抱える彼女を、俺は黙って見守る。
そのまま床のある一点を見つめてしまったAとは、目が合うことはなかった。
『……私さ、』
「うん」
話し出したと思ったら、Aはすぐに言葉を詰まらせる。
逸る気持ちを抑えながら、口を開いては閉じる彼女を大人しく待ち続けた。
『私……』
「……うん」
『…………うっしーと、ホテル行った』
「……は？」
Aの話をなんでも受け入れる心つもりでいたのに。
どうにも信じられない言葉に……いや、信じたくない言葉に、上手い返しは一向に思いつかない。
『うっしーが急に、”相談したいことがある”なんて言うから何かと思ったら恋愛相談でさ。好きな人の特徴を聞けば聞くほど、あれ、これ私の事じゃんって思って……浮かれて……そのままホテルまで行った。うっしーが私に触れて……まるで夢でも見てるような気分だったの』
その日の出来事を思い出しながら、はにかんで話すAの横顔を見つめる。
彼女の声は届いているはずなのに、最初の一言の衝撃から抜け出せず、細かい話は所々しか頭に入ってこなかった。
「……じゃあ、うっしーとヤったってこと？」
やっと振り絞って出した言葉は、一番聞きたいことで一番聞きたくないこと。
Aと俺も体を重ねたけど、俺とヤった十数回よりもうっしーとヤった一回の方が、Aには意味があって。
あぁ聞かなきゃよかった、って。
今日ここに来なきゃよかった、って。
今更こんな事考えても仕方ないのに、後悔ばかりが頭を巡る。
しかし、Aの反応は思っていたものと違った。
てっきり嬉しそうに『うん』と頷くものかと思っていたのに、再び言いずらそうに口を噤み、微妙な笑顔を浮かべている。
『……しなかった』
「え？」
『うっしーとは、ヤってない』
「ホテル行ったのに？」
『あー……うん。正確に言うとできなかったの』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 178人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「実況者」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ひばり(プロフ) - やとさん» コメントありがとうございます！そして、長らく更新できず、申し訳ありませんでした……前作から読んでいただき嬉しい限りです！！更新頑張りますので、完結まで見守っていただけたらと思います！ (2021年6月7日 1時) (
レス) id: 22260f8f2e (このIDを非表示/違反報告)
やと(プロフ) - 初めまして。好かれる理由が分からないでひばりさんを知り、こちらの作品も投稿され始めた時から読んでいて…今更新通知がきてドキドキしながらすぐに見に来てしまいました…！すごく好みの作品で…(T_T)！更新楽しみにしています。応援しております◎ (2021年6月7日 1時) (レス) id: 9b84b3a66a (このIDを非表示/違反報告)
ひばり(プロフ) - あさぎさん» コメントありがとうございます！更新できるように頑張ります〜！ (2020年12月31日 10時) (レス) id: 22260f8f2e (このIDを非表示/違反報告)
あさぎ(プロフ) - 続き楽しみにしてます。頑張ってください。 (2020年12月30日 19時) (レス) id: 86dd44b865 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ひばり | 作成日時：2020年11月14日 17時
