四日目の夜 ページ6
涼しい夜だった。
だが、この本丸に月明かりはなかった。
月がなかった。
今はただ、涼しい夜がえも言われぬ恐ろしさを醸し出している。
石切丸は大太刀だ。
夜目は短刀や脇差、打刀までとは言わないが人並みには見える。
だが、見えないものは暗くて見えない。
だからこそ過敏になるものはある。
今は聴覚がとても働いていた。
本丸の門の外から声が聞こえる。
恨み嫉み、醜悪な感情を過多に口から垂れ流している。
最早それは肉を持つ人の声には聞こえなかった。
聞こえないだけで人かもしれないが。
今までこんなことは無かった。
あの主が来てからだ。
我らの主は殺しの様な何かをしていたのだろうか。
とてもそんな風には感じられない霊力だった。
例えるならそう、お酒のような酩酊感によって引き出される幸せな気持ち。
そんな主が……なんて思っても、事実は変わらない。
｢……祓い給え、清め給え……。｣
今の彼にはこれぐらいしか出来なかった。
少しでも彼らの気持ちが鎮まるならと。
この事を鶯丸に報告するか否かは明日の石切丸にしか分からない。
それどころか鶯丸を信用しているかも分からない。
幼子が障子を隙間程度に開け、外を見ている。
門に注視している。
その目は大人に怒られる子供の様だった。
パッと見ると怖くて睨むようにしか目を向けられない様に見えるが、じっくり見てみるとそこには怒りと殺意が混合していた。
｢…迷惑……。｣
子供は自分の後を追ってきたアイツらが嫌で嫌で仕方なかった。
腐った臭いと嗄れた声、ハエがたかるその体は異形そのものに近かった。
この子供は、今はもう既に恐怖よりも執拗さと陰湿さにうんざりし、最早幼いながらにそれに向ける感情は殺意と化していた。
だが、この子供は経験値が足りない。
知識はあるのだ。使わないだけで。
それに、この体で出来ることは少ない。
やはり、あの付喪神達に助けてもらうしかないのか。
できることなら、自分の問題は自分でどうにかしたかった。
平仮名だけの本で読んだことがある。
刀剣男士とは刀の付喪神で武器であり、同時に加護を有する。
加護を有していなくともそれに近いものはあるだろう。
何百年と存在した彼らには子供にはない経験値があっ
勇気と希望をって相談するしかないのか。
嫌われることになるかも。
幼いながらに嫌われるのがどんな事か知っていた。
あれはもうあんまりだった。
そうして昨日と同じ思考と材料でグダっている。
続く
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作者名：おまじない | 作成日時：2018年8月15日 0時
