狐の憂鬱 ページ5
鳴狐は見掛けてしまった。
審神者がこの本丸の門を潜るところを。
声をかけようとしたが、どっと謎の疲れが溢れた。
瞼も重く、足も、手も、身体がダル重くなる。
何もしていなかったのに、と怪しく思ったがそこで意識は途切れた。
気がついたら縁側で倒れていた所を太鼓鐘貞宗に見つかり心配されていた。
何があったのだろうか、微かに覚えている審神者、自分達の主の霊力になにか障ったか、などと思考を巡らせると、太鼓鐘により心配された。
｢なぁ、鳴狐。これって審神者、いや主の霊力だよな？｣
いつもより体が軽いし、そう鳴狐に質問する。
鳴狐は頷くのみ。
｢鳴狐は主に会ったか？｣
鳴狐は首を横に振った。
｢…そっか。挨拶しに行ってもいいよな！｣
最初はそう思っていた。
主のいるという離れにきたが応答もしない、扉も開かない。
手詰まりなことを他の刀にも伝えた。
だが伝えたあとも、審神者を見かけたとはい言わなかった。
きっと、これからも言わないだろう。
幼い人の子が誰かの血飛沫を浴びて入ってきたのだから。
主からの悪い様なことは感じない。
それどころか冷たい日に暖かい風が吹いてくるような、そんな霊力だった。
誰かから逃げているようでもないし、どうしたのだろうか。
鳴狐の刀派には沢山の短刀がいる。
だからこそ、その姿形が似ている主を心配した。
伸びきった髪、ほつれた甚平、何も履いていない小さな足。
胸がなにか不穏なものでいっぱいになり溢れたきがした。
それがあの疲れだったのか、それは鳴狐自身もわからない。
だか、そんな主をすぐに助けられなかったことを、鳴狐は凄く悔やんでいた。
疲れなんかに負けてしまった自分が腹立たしかった。
だから主に、会いたかった。
自分のこれからの行動で示していきたかった。
だが、主はあれ以来外に出ていない。
これでは元も子もない。
そんなとき、鶯丸から主のことについて相談された。
いいタイミングだった。逃すわけにはいかなかった。
手紙を送るというアイデアは、皆に賛成して貰えた。
言い出しっぺだからと主に一番最初に手紙を送れた。
鶯丸からは読んでくれたようだと聞いたが、はたまた本当だろうか。
この刀はときに、残酷な程に優しい。
身を滅ぼしかねないこともある。
それも鳴狐の悩みの種だった。
今までに感謝してもしきれないことをしてもらった。
どうしてもこの一振りと一人に伝えたいのだ。
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作者名：おまじない | 作成日時：2018年8月15日 0時
