昨日の約束

37 ページ37

「ミツ、目腫れてる」
「ん･･･」


朝イチの講義を玉森と終え、空き時間が一時間だけあるからラウンジのふちのテーブルに座り顔を伏せてる。
何人か話しかけてくる気配も感じたけど、全部玉森が制してくれてる気がする。


玉森は本当に甘い。俺に。


「･･･ガヤ？」
「ん」
「だからガヤに関わらない方がミツのためだって言ったよね？オレがミツを大切にするよ」


耳元で囁かれても、もう何も思えない。
知ってしまったから。甘い吐息を。


「ごめん。玉森。気持ちは嬉しい。けど、」


顔を上げて玉森の瞳をしっかり見つめる。
腫れていて、少し開きにくい瞼も。なんとか時間と共に治ってきていた。


「俺は･･･藤ヶ谷がいいんだ。今の藤ヶ谷も好きなんだ」

藤ヶ谷のこと何も知らない。でも、好きなんだ。
この気持ちは嘘じゃない。


「ミツ･･･」


玉森の瞳が揺れる。本当にごめん。
そばにいてくれたのに…大切にしてくれたのに。
ごめん。
次の瞬間、ふと笑った。俺の大好きな玉森の笑顔。


「その言葉、ちゃんとガヤに言った？」
「え？」
「･･･待ってるだけが、愛じゃないんだよ？」
「･･････」
「好きなら、ちゃんと自分から言いな。ミツが自分の手で幸せを掴むんだ」
「でも、藤ヶ谷･･･彼女が.....」
「奪えばいーじゃん。ミツの気持ちはそんなに弱かったの？」


"奪う"･･･
でも、奪ってまで幸せになりたい？
ほかの人を不幸せにしてまで･･･


藤ヶ谷が欲しい？


"北山、お前といるとオレは楽しいよ。誰よりも幸せ"


"可愛い。宏光。"


それでも藤ヶ谷が欲しい。


そんな時、偶然に少し離れたところに藤ヶ谷の彼女がいた。一人で歩いていた。


「･･たま！俺.....」
「･･･ミツが選ぶんだよ。待ってるだけじゃなくて。ミツがちゃんと迎えに行って」


玉森が背中を押してくれる。


泣きはらした夜。
それでも、逢いたかった。追いかけてくれなくても隣にもう一度乱入しようかと思った。


立ち上がる。
藤ヶ谷の彼女に宣戦布告するんだ。


その彼女の元へ走る。
彼女はそんな俺に一瞬驚いたようだったけど、声をかけてくれた。


「北山さん、ですよね？」


むしろ名前を呼ばれてしまった。
名前を知られてることに驚くと、彼女はふふっと微笑む。


「よければベンチ行きませんか？相談したいことがありまして」


彼女が指をさしてくれた先には広場にポツンとあるベンチ。周りには誰もいない。


それに頷き彼女の後ろをついて歩き出す。

38→←36

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す