120発目 ページ37
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈17年前
「あきら！来て来て！」
「ねーね？」
畳の上でミニカーを動かす弟を抱き上げ、走るなと言われている廊下を出来るだけ速く歩いた。あー、うー、なんて言いながら私を見上げる暁に話しかけた。
「ボスの子供が生まれたんだって！女の子だって！」
「……？」
キョトン顔だったが、見せれば分かるだろうと、人集りを縫って扉に手をかけた。
「月奈！やめなさいっ」
誰かの手をも交わして部屋に入る。白いベッドの上で、"マザー"……ボスの奥様が横になっていた。傍らには、柔らかい笑みを浮かべたボスが居る。
「あら……月奈と暁じゃないの」
マザーの優しい目が私と暁を捉えた。
「も、申し訳ございません！止めたんですが……ほら月奈！行くぞ」
背中を押される。……いやだ、あの子に会いたい。マザーの隣で眠るあの子に……
「いいわ。いらっしゃい」
「おいで月奈、暁。お前たちの従妹だ」
ボスは白い布に包まれた赤ちゃんを抱き上げ、私たちに歩み寄った。少し屈んで、腕の中を見せてくれた。
「……！」
「可愛いだろう？」
「はい……！」
「どうだい暁？」
私も暁に目を向けると、弟はボスの腕の中を凝視していた。静かに、たたじっと何かを見極めるような真剣味を帯びた眼差しで。そして、徐ろに腕を伸ばしたのだ。
「あー」
『……』
いつもオモチャを投げたりする手で、そっと赤ちゃんの頬に触れた。
「おぉ分かるか！賢い子だ」
「ボス、……この子の、名前って……」
「叶多だ。朱雀叶多。正しく、賢く、強く。多くの夢を叶える人間になれるように」
後半の言葉はよく聞いてなかったが、その名前の響きだけは妙に耳に残った。
「叶多、様……！」
この子が神から生を受けた奇跡のように見えた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 33人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：すみた先生 | 作成日時：2021年4月10日 18時
