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86発目 ページ3

「行こうぜ」

『ああ』





今日は父さんと母さんとじいちゃんの命日。墓参りに行く日だ。




「あの日から10年か」

『早いな……』


あの惨劇からもう10年だ。あの日からずっと、仕事ばかりで感傷に浸る暇すら無かった。






車を走らせて1時間。都心部から離れた、一面田んぼが続く地。




「なんでここに墓立てたんだっけな……」

『さぁね。いつ死ぬか分かんないから、穏やかな場所が良かったんじゃない?』

「……じいちゃんらしいわ」

『うん』



緑が続くこの地に、黒一色の私らは目立つだろう。




「……」

『……』



青空。緑の地。黒の私達。そこに吹く清い風を感じながら、目を閉じて手を合わせた。







父さん、母さん、じいちゃん。ただいま。


みんなの仇は討った、安心して眠って。私と暁はこれからも頑張るから。






「……!叶多……お前……」

『……あ……』


頬を伝ってパタパタと石に染みていく滴。




『……って、暁も泣いてんじゃん』

「……るせ」


想いが伝播したのか目を潤ませて鼻を啜った暁。




『はぁ……やっと終わった』

「……おう」

『これでやっと……死んだみんなに顔向け出来そうだ』

「そうだな」

『まだやる事は山積みだけどね』

「分かってる」





私達はずっと死にたかった。

私はきっかけ(・・・・)を作ってしまい、月奈達を追い出してしまった罪の意識に。

暁は誰も守れなかった自分の無力さに。


ずっと苛まれてきた。


死んだ方がマシなくらい残酷な世界。子供の私達が生きていくには厳しすぎた。



でも、死ぬのは駄目だと思った。それは逃げだ、と。償いもせずに逃げるのは、私達の心が許さなかった。だから償おうと、いつか彼らに顔向け出来るようになろうと、ずっと今日まで生きてきた。




そう、私達への罰と償いは"生きること"






「半分は返せたな」

『うん。……さて、もう半分だ』





いつか、胸を張って彼らの下へ帰れるように。今日も私達は生きなければならない。

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作者名:すみた先生 | 作成日時:2021年4月10日 18時

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