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「行こうぜ」
『ああ』
今日は父さんと母さんとじいちゃんの命日。墓参りに行く日だ。
「あの日から10年か」
『早いな……』
あの惨劇からもう10年だ。あの日からずっと、仕事ばかりで感傷に浸る暇すら無かった。
車を走らせて1時間。都心部から離れた、一面田んぼが続く地。
「なんでここに墓立てたんだっけな……」
『さぁね。いつ死ぬか分かんないから、穏やかな場所が良かったんじゃない?』
「……じいちゃんらしいわ」
『うん』
緑が続くこの地に、黒一色の私らは目立つだろう。
「……」
『……』
青空。緑の地。黒の私達。そこに吹く清い風を感じながら、目を閉じて手を合わせた。
父さん、母さん、じいちゃん。ただいま。
みんなの仇は討った、安心して眠って。私と暁はこれからも頑張るから。
「……!叶多……お前……」
『……あ……』
頬を伝ってパタパタと石に染みていく滴。
『……って、暁も泣いてんじゃん』
「……るせ」
想いが伝播したのか目を潤ませて鼻を啜った暁。
『はぁ……やっと終わった』
「……おう」
『これでやっと……死んだみんなに顔向け出来そうだ』
「そうだな」
『まだやる事は山積みだけどね』
「分かってる」
私達はずっと死にたかった。
私は
暁は誰も守れなかった自分の無力さに。
ずっと苛まれてきた。
死んだ方がマシなくらい残酷な世界。子供の私達が生きていくには厳しすぎた。
でも、死ぬのは駄目だと思った。それは逃げだ、と。償いもせずに逃げるのは、私達の心が許さなかった。だから償おうと、いつか彼らに顔向け出来るようになろうと、ずっと今日まで生きてきた。
そう、私達への罰と償いは"生きること"
「半分は返せたな」
『うん。……さて、もう半分だ』
いつか、胸を張って彼らの下へ帰れるように。今日も私達は生きなければならない。
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作者名:すみた先生 | 作成日時:2021年4月10日 18時