21発目 ページ23
「あぁすみません。大丈夫でしたか?」
標準語に寄せようとする言葉に滲む微かな訛り。
『えぇ大丈夫です。すみません、前をよく見ていなくて……』
「いえいえこちらこそ。……」
『……?』
私の顔……の横を見てくる
インカムに気づかれた?
「……」
『……』
手を伸ばして来るのを見て少し冷や汗を流した。
「……取れた。ゴミ、付いてましたよ」
『ありがとうございます。……では』
「いいパーティーにしましょうね」
今の金髪、間違いなく
《Foxのアヤミです。監視カメラの映像から同伴者を発見。同伴者はシタキです》
『……』
あの目……なんか引っかかる
まぁいい、今はターゲットが最優先。
「これからもよろしく、と」
!!……いた
『スゥー……ハァー……』
自然に、仮面を付けて。私は柚葉、16歳。さあ行こう。
『アベル大臣!』
「おぉ日本の高校生か」
『柚葉と申します。以後お見知り置きを』
接触はターゲットではなく大臣。ターゲットは大臣お抱えの通訳だから離れることはない。
『私、ヨーロッパについて勉強していて、大臣とお会い出来ると知って楽しみにしていました。フランスでのご活躍、記事で拝見させて頂きました』
「!フランス語が上手だね」
『勉強したので!』
私は純粋な16歳。勉強熱心でヨーロッパ諸国を調査中。特にフランスに興味を持つようになった少女。
「トエル君、この子は将来外交官になるかもしれないな」
「そうですね大臣」
「君も、この男のように賢い人になりなさい」
『精進いたします!』
トエル・ビゲラは偽名。
「それでは楽しい夜を」
『大臣も』
クルリと背中を向けて去っていく大臣。
『あっ……!』
「!……大丈夫ですか」
ニヤリ。私の奥底の顔が口角を上げた。
『すみません、ヒールは慣れないもので……』
「まだ学生だから仕方ないね」
ふん、その紳士ぶった面の皮、私がひっぺがしてやろう。
「立てるかい?」
『っ……あ、足を挫いてしまいました』
「……今スタッフを呼んでくるから待っていなさい」
立ち上がって行こうとするそいつの袖を、乙女よろしく摘んだ。
『行かないで、ください……』
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作者名:すみた先生 | 作成日時:2021年1月10日 23時