「愚かだなぁ」 ページ48
「もう大丈夫。私が来た」
ここに来て真打ち登場か。
「あぁ……コンティニューだ」
「だね」
もちろんオールマイトは僕に気づいてる。一瞬驚いた顔をしたが、すぐに険しい表情に戻した。そもそも僕に期待などしていないんだろう。僕が裏切る事は、ほぼ確定で計算に入れられていた。僕もそれを分かって動いた……というか僕の行動を彼らがどう予想しようと僕に影響する事はないんだけど。
「黒霧くん、僕をアジトに送ってくれるかい？シガラキくん、良いよね？ここは脳無に任せるよ、僕の出番じゃなさそうだし」
シガラキくんは僕の声が聞こえていないようだった。高揚した様子でオールマイトを見つめている。イラつきか、期待か、どっちだっていいけど、聞こえていないなら好きにさせてもらおう。
黒霧くんに顔を向けて頷くと、僕の体は暗闇に包まれ、次の瞬間にはあのバーに居た。
「……」
僕はなんでショータを助けるような真似をしたんだろう。別に面白そうだとかを思った記憶が無いんだけどな〜。僕には元来無いはずの感情があったように思う。
正体は分からない。
ただその存在を認めたくなかった。苛立ちにも似た焦燥……いや、未知に対する恐怖かもしれない。それこそ、怖いもの知らずな僕には稀な事なんだけど。
人が死ぬ場面は何回も見てきた。僕が殺した訳じゃないけど、目の前で人が死ぬ光景は特段見慣れないものじゃない。人間の死は必然であるから、僕は驚かない。泣こうが喚こうが最期は訪れる。その瞬間がいつになるかが分からないだけ。だからその瞬間まで僕は自由に生きる。
血も、ボロボロの体も、うめき声も、僕のものじゃないなら気にならないはず。
〈逃げるなよ〉
〈学校で勉強する気は無いか〉
〈合格だよ〉
〈それはつまり…殺そうとした、そういう意味でいいか〉
〈俺もお前を見放すつもりはない〉
〈帰るぞ。〉
「愚かだなぁ。僕に肩入れしちゃってさ」
日常を享受していれば良いものを、異分子にまで手を差し伸べるから面倒な事になるんだ。やはり彼らの言う正義ってのは、理解し難い思想だな。
〈世界は創造主なる神にとって統治され、我らはその恩恵に肖る第一線に選ばれし人間〉
「……あれよりは分かりやすいか」
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作者名：すみた先生 | 作成日時：2022年8月17日 12時
