「あれ〜？なんで？」 ページ46
「んだコレ！？おいクソ髪！」
「個性が……入れ替わってる！？」
「っ、茶番してる暇ねェんだよ！！」
「いやマジで！！」
お〜焦ってる焦ってる。確かあのウニ頭くんはプライド高い系男子だったはずだから、自身のアドバンテージである個性を取っ替えたのは我ながら良い作戦だ。
さて次は……
丁度視界に船が映ったのでそっちに行こう。どうやら船の上には誰か乗っているらしい。そして、その船を取り囲むようにヴィランが水中に漂ってる。なるほど、現状は膠着状態ってところかな。
「イイコト思いついたッ」
気配を消して水辺に近づく。水に手を入れて、かき混ぜるように動かした。そしてサッと手を引き抜いてその場を離れた。しばらく耳を澄ましていると、悲鳴が聞こえてきた。
「ははっ」
熱湯でグツグツと煮られたオオカミの気持ちはどんなだったのかな？どうだっていいが、彼らが代わりに感じ、子供の頃に嘲った事を後悔してくれるだろう。
その時、船から何かが飛び出した。
「……あぁ〜、緑谷出久…だっけ」
カエルちゃんとブドウくんと共に脱走を図ったか……しかも、トドメと言わんばかりに渦水まで起こしてくれちゃって。これじゃあ熱湯にした意味がないじゃないか。むさ苦しいヴィランの叫び声を聴いたところで何も面白くない。興醒めだ。
期待外れな結果に溜め息を吐いて、とりあえず戻ろうと広場に視線をやった。
「……」
脳無がショータを地面に叩きつけている。ピクリとも動かない様子と、白い地面に広がる血溜まりが、ここからでもハッキリ見えた。
ただ、弱肉強食の世界が見えているだけ。
ただ、彼が脳無に敵わない事が証明されているだけ。
ただ、他人が死にかけているだけ。
「あれ〜？なんで？」
ペタペタと顔を触ってみる。その手を眺めてみる。もう一度広場を見てみる。
ただの日常。ただの風景。ただ……ただの
シガラキくんがこちらに走ってきた。しかし狙いは僕じゃないみたいだ。進路は僅かに逸れて、水辺で広場を唖然と見つめるカエルちゃんにシガラキくんは手を伸ばす。
「ホントに……子供だなぁ。
…ん？」
崩れると思ったカエルちゃんは、シガラキくんが触れても形を保ったままだ。
「本っ当、かっこいいぜ。イレイザーヘッド」
一瞬だけ見えた赤い瞳は、再び地面に叩きつけられた。
「本当になんでだろう」
僕は、何かを認めたくない気持ちを抱えたまま、指を鳴らしていた。
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作者名：すみた先生 | 作成日時：2022年8月17日 12時
