「一芸だけじゃヒーローは務まらない」 ページ44
祈り虚しく、悪意はやって来た。
13号に指示を飛ばす。物分りのいい後輩は、俺の一言だけで冷静に足を動かした。学校に連絡を試すように上鳴にも言葉をかけた。どこからか、「先生は」と聞こえた。
「イレイザーヘッドの戦闘スタイルは……奇襲からの短期決戦。あんな大人数相手に一人は」
相変わらずどこで仕入れたか分からない情報を口にする緑谷。不安げな目がいくつか俺に向いていた。
「一芸だけじゃヒーローは務まらない」
それだけ言って駆け出した。捕縛布を使い群衆に踏み込んだ。敵数をちまちまと数えている暇は無い。だが、手応えは強くはない。多対一こそ俺は動きやすくなる。そこら辺のチンピラを大勢集めたところで、そういう奴らを何度も相手にしてきた俺には、特別厄介な事でもなかった。
気がかりなのは、奥に鎮座する青年だ。恐らく主犯格なんだろうが、身体中に付けられた手が不気味さを助長する。
その時、後ろで悲鳴が聞こえた。刹那の瞬きの間に、どうやら一番厄介そうなものをあちらに寄越してしまったらしい。黒い霧が入口周辺に固まっていた生徒達を飲み込む。その方向へ進もうとする足を止め、視線を前に戻した。……あっちは、13号に任せよう。
あの黒い霧、ワープゲートの一種だろう。生徒を外へやったとは考えにくい。となるとやはりこの施設内に分断するのが目的か。面倒な事をしてくれるもんだ。
「クソっ、個性が」
「どこ見てやがるっ！」
「ちょっと邪魔しないで！！」
やんややんやと喧しい……動いても動いても数が減ってない気がする。
「バカを相手にするのも疲れるよねぇ」
聞き慣れた声が
「先生っ！！！」
守るべき生徒の声が
暗転した世界に響いた。
「どっちも良いね〜」→←「体調不良で休むと今朝連絡があった」
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作者名：すみた先生 | 作成日時：2022年8月17日 12時
