「お別れかなぁ」 ページ41
「…少し、考えさせてくれるかな。僕は判断しに来た訳じゃないんだし」
《もちろんだよ。じっくり考えて、どちらが君にとって利益のある道か……良い答えを期待してるよ》
それっきりテレビから声は聞こえなくなった。思案の声を漏らしながら、グラスの水を回す。
「まさかヒーローの差し金とか言うなよ。もしそうなら……」
「ここで殺すかい？せっかく戦力になりそうだってのに」
「ご自分の立場をよく分かっている……死柄木弔、ここは穏便に」
シガラキくんは舌打ちをひとつ落とし、立ち上がってどこかへ行ってしまった。荒んでるねぇなんて僕が言うと、「まだ成長過程です」と黒霧くんが答える。
「僕以外にも声はかけてるんだろ？」
「紹介は全てブローカーに任せています。義爛、という名前は？」
「これまた大物だね。僕には無縁だけど」
「めぼしい人物が居なかったところにあなたが現れたので、彼も浮足立っているのでは」
「知ったこっちゃないね。決めるのは僕だ。
…じゃあもう行くよ。ショータが怒りそうな時間だし」
そろそろ帰ろうかと立ち上がると、空気が揺らいだ。でも僕は、"気づいてるが気づいてない"フリをして店を後にした。
日が暮れそうだなぁ〜。警察に補導でもされたらたまったもんじゃない。面倒事は避けて早く帰ろう。
お面を被ったまま路地を練り歩き、駅近くまで来たらポケットにしまった。最寄り駅で降りて、マンションへ向かう。
「……お別れかなぁ」
ショータの部屋を見上げ呟くと、背後から声がかかった。
「遅くなるなと言ったはずだ」
「メンゴメンゴ。猫を追いかけてたら遠くまで行っちゃって」
「……まぁいい。帰るぞ」
「……」
「どうした」
立ち止まった僕をショータは振り返る。ほんの少し赤を残した暗い空の色に、真っ黒なショータが輪郭を彫る。
「歩き回ったせいで足が痛くてさぁ、おぶってよショータ」
自分で歩けと冷たくあしらったショータがマンションに入っていく。つれないなぁ〜と言いながら、僕はその背中を追った。
小さく丸めた紙屑は、用水路に捨てた。
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作者名：すみた先生 | 作成日時：2022年8月17日 12時
