「僕も混ぜてよ」 ページ5
「ただいま」
さっぱりした髪をいじりながら帰宅。コートをそこら辺に脱ぎ捨て、代わりに黒いパーカーを羽織る。仕上げに、お面を手に取って被った。
「うん。行こうか、あべこべ君」
勝手口から出て、路地裏をフラフラ歩いた。個性で建物の壁を床にして、上まで登ってみると、屋上には鳥が三羽。僕に驚いて飛び去ってしまった。
「驚かせるつもりはなかったんだけどなぁ…まあ仕方ないか」
何か面白い事はないかと見渡す。隣のビルの屋上に、黒い覆面の男性が姿勢低く下を見つめているのを見つけた。
「おーい、何してるんだーい？」
「！？…お前、あべこべ君か……？」
「お、僕有名人じゃん。そんな事よりさ、何やってんの？」
「あぁ？…今日このビルに大企業の社長さんが来てんだとよ。そいつが出てきたところを、俺のピストルで脳天一撃、って依頼されてんだ」
よく見ると、人差し指の先っちょに穴が開いてる。そういう個性なのかな。
「依頼って、誰に？」
「そこが面白え所なんだよ。依頼主はヒーローだ」
「…へぇ」
「その社長さんの護衛を頼まれてるヒーローが、直接俺に依頼してきやがった」
ヒーローが暗殺を依頼、ねぇ……世も末だ、どんな奴がヒーローか分かったもんじゃないな。
「そういうこった。悪いが仕事中なんでな、ガキはどっか行ってろ」
「え〜そんな冷たい事言わないでさ、僕も混ぜてよ」
「どうせすぐ終わる。お前がやれる事なんざねーよ」
「そのヒーローの個性って分からないの？」
「知るか。どうでもいい」
もうすぐ時間だと言って男性は黙ってしまった。
ん〜、ヒーローが黒なのは確定なんだけど、何か引っ掛かるなぁ……このヴィランを嵌めようとしてる気がしてならない。そういう匂いがプンプンする。
もしヴィランを助けたら、ヒーローはどんな顔するのかなぁ？
「……お出ましだぜ」
サングラスをかけた男性が呟いて、指を下に向けた。僕も覗いてみると、細身のヒーローを傍らにつけて、スーツを着た中年男性が出てきた。
「死にやがれ」
消音銃のような独特の音が聞こえた。
「……やっぱりねぇ」
「なっ！？」
その銃弾を、ヒーローが腕に創り出した盾で弾いた。
「君もバカだなー。端から騙されてたって事だ」
「な、んで……」
「でもまぁ、これも学習ってやつじゃない？いーよいーよ！何回でも失敗しよう！」
男性の肩に触れて、僕は空に浮かび上がった。
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作者名：すみた先生 | 作成日時：2022年8月17日 12時
