「ふーん」 ページ38
「本当に見ていないんだな？」
「だからそうだって言ってるだろ〜、僕だって面倒事に巻き込まれるのは避けたいんだ」
その後、防壁が破壊されていたらしく、事情聴取らしきものをショータから受けていた。ヴィランは見ていないのか、何か見ていないかってね。まぁ僕がヒーロー達に与する理由はないから何も言わなかったけど。
生徒指導室からやっとの事で開放されて教室に戻る。
「逆さん、大丈夫でしたか？」
「昼寝してただけなのに問い詰めてくれちゃってさ〜」
席に着いたところでポニテちゃんが話しかけてきた。適当に返すと、「そういえば」と話題を持ってくるポニテちゃん。
「昼休みの一件で、緑谷さんが飯田さんに委員長を譲りまして」
「ふーん。で、君は相変わらず副委員長のままかい」
「…はい」
「そーかいそ−かい」
慰めてほしいのか何なのか知らんけど、ポニテちゃんは言葉を切って俯いた。僕はそれを無視して窓の外を眺める。すると、ポニテちゃんも前を向いた。
僕はポケットの中に押し込んだ紙切れを取り出し、視界の画角に持ってきた。さっきは何も気にせずしまったから何が書いてあるか分からなかったけど……どうやらこれは地図らしい。紙の真ん中に描かれた四角形が斜線で特異づけられている。その周りの道路らしき線はやけに入り組んでいるように見えた。
「(こんなの分かるわけな……)」
……いや、分かる。
「突然の警報で驚いたと思うが、既に調査を進めている。お前達はあまり気にするな」
いつの間に来ていたショータの声が聞こえて、思わず紙を握り潰した。クシャッ、と小さな音がして手の中に収まったが、僕は特に表情を変えずに外を眺め続けた。
でも脳内には手の中の地図がハッキリ記憶されている。あの入り組んだ道、ヴィランが拠点としそうな所、周囲の建物の位置関係、おまけに紙から香る酒の匂い。まず街は特定できた。僕が以前、数日間寝処にしていた路地の近くだ。そこに行けば、後はバーらしき店を探せばいい。
〈自由をお望みでしたら、いつでもお待ちしてますよ〉
「……ふーん…」
行ってみるか、神野。
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作者名：すみた先生 | 作成日時：2022年8月17日 12時
