No.110 ページ10
私は結んでいた口を開いた。
「――目黒くん。
私は目黒くんがしたこと、間違ってたなんて思わないよ。
……ずっと、苦しんできたんでしょ？
私はお姉さんじゃないし、
こんなことをいうのは無責任かもしれないけど……
きっと、お姉さんは、
目黒くんを恨んでなんてないよ。
――私が今でも家族を恨んでいないように」
――そう。
私は一度だって、
いじめに気付かなかった家族を恨んだことはない。
辛い状況になったことに変わりはないけれど、
気づかれてしまっていたなら、
もっと辛かったかもしれないと思うから。
「……俺が、その状況に追い込んだんだよ？」
「でも、
……きっと恨まないと思う。
だって、
……家族なんだから」
大切な、
唯一無二の存在なのだから。
きっと大丈夫だとどこかで私は確信していた。
私と、目黒くんのお姉さんは似ている気がしたから。
「……本当に恨むべきはその男だよ。
目黒くんじゃない。
だから、目黒くんが気にやむ必要なんてないんだよ」
けれど、反応のない目黒くんに私は彼の名前を呼ぶ。
「……木ノ下さん、俺がいて、よかった？」
ようやく言葉を発したかと思えば、
そんな不安に感じるようなことを言うので、私は笑う。
「当たり前だよ。
何度言わせれば気が済むのかな。
目黒くんは実感がないようだけど、
私がこうして笑っていられるのも、
全部全部、
目黒くんのおかげだってこと、忘れてるんじゃない？
言ったでしょ、
私は目黒くんに出来る限りのことはしようと思うくらい、恩を感じてるんだって。
――本当に、
目黒くんがいなかったら、
私は……
どうなっていたか、分からない」
緩めていた表情をふと真顔に戻す。
たまに、思う。
きっとないとは分かっているけれど、
もしかしたら、
私は目黒くんがいなければ命を絶っていたかもしれない、と。
……松村くんに会ったとき、
私はどうしようもないほど死にたくなったのだ。
馬鹿みたいに脆い精神を自分でも蔑んで、
……このまま死んでもいいとさえ思った。
――脆弱な精神は、
あれから少しは強くなれたのだろうか。
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作者名：いちご | 作成日時：2020年2月15日 18時
