No.142 ページ42
「――康二くんは、
目黒くんが隠した理由を私が傷つくからだって言った。
……私が康二くんのしたことを知ってショックを受けるから、
隠したんだ――って。
……でも、私は……」
俯いて、声が小さくなる。
目黒くんは
「いいよ、言って」
と手を握り返した。
「……私は、隠してほしくなかった。
もちろん、目黒くんの気持ちはすごく嬉しいよ。
――だけど。
……出来るなら、教えてほしかった、って思ってる」
私は口をきゅっと結ぶ。
「……あの時期があって。
それからも、自分の弱さを痛感するような出来事がたくさんあって。
私はそのたびに歩みを止めてうずくまることしかできなかった。
弱さにただ自分を堪えるしか、術がなかった。
――そんな自分が、
……嫌で堪らなかった。
だけど、
……もう私は弱い自分から、決別したい。
……強くなりたい」
傷付くことを恐れることなく受け入れられる人に。
声は小さいながらも、その言葉に熱を込める。
「……木ノ下さんは、もう十分強いと思うけどな」
「……そんなこと、ない」
首を振った私に、目黒くんは笑いかけた。
「確かに……
隠したのは傷付くのを心配したからってこともある。
だけど、それだけじゃないよ。
――俺が、向井を嫌ってほしくなかったから」
ばちぱちと目を瞬かせる私を一瞥してから、目黒くんは続ける。
「……いいやつだからさ、あいつ。
もし向井が木ノ下さんにその話をするとき、
気にしていないようなそぶりを見せていたとしても、
……本当は誰よりも気にしてるやつだと思う。
優しさをあんまり外に出さないんだよね。
……まあ腹黒いところも確かにあるんだけど」
苦笑した目黒くんに私は頷く。
「なんとなく、気付いてた」
それが、ただの一面にすぎなくても、
少なくとも、
私が一緒にいたときの康二くんはそういう人だった。
……本当に、彼は優しい人だった。
「……そのことで、一つ聞きたいことがあって。
目黒くんは、川波さんが康二くんのことを好きじゃないこと、知ってた？」
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作者名：いちご | 作成日時：2020年2月15日 18時
