No.55 ページ5
「分かりやすいよね、向井くんって」
なんの話、？ と私は湊ちゃんに尋ねた。
私たちの体育での試合が終わり、コートの外で他の
チームの試合を見ている。
「向井くん、Aが好きなの丸見えだよ？
あれじゃ告白断ったのがなかったことにされてるみたい」
「そうかな。
……そう見える？」
「実際、付き合ってるって噂が流れてるくらいなんだよ？
私はデマだって分かるけど、他の子は信じてもおかしくない。
目黒くんが好きなら、
……向井くんと距離をおくべきなんじゃないかな」
目黒くんに誤解されてるかもしれないから、と湊ちゃんは問いかける。
「……でも、目黒くんはもう私を気にもしてないと思うよ。
……関わりがないんだから」
吐き出すように言った声は思いの外重い声で、
――心配させたと焦る。
でも、私は続けた。
「私ね、湊ちゃん……
目黒くんのこと、諦めようと思うんだ」
ずっと前から
考えていたことを口に出すと
……いやに現実味を帯びていた。
「……目黒くんには彼女がいる。
これ以上、虚しい想いを抱えているのは、
……私には荷が重過ぎるよ」
でも、と私は思う。
……そっちから言ったのに。
友達になろうって、手を差し伸べたのは目黒くんなのに。
――嘘つき。
せめて、……報われなくても友達でだけはいてほしかった。
大切な、友達だと思ってたのに。
私が言った言葉に湊ちゃんは少し寂しそうに笑う。
「うん……無理もないよ。
苦しいよね、好きでいるのは。
……だから、私はとめないよ」
実験室はもう、目黒くんのいない悲しみがあるだけだ。
……好きだって気付いたときから、
あの日から、目黒くんは一度も実験室には来ていない。
……当然だと思う。
彼女がいるのだから、一緒に帰りたいに決まってる。
……でも、私は
自分を優先してくれることをどこかで願っていた。
……そんなわけないのに。
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作者名：いちご | 作成日時：2020年2月11日 11時
