No.89 ページ39
休み時間中、
康二くんと目黒くんは
他クラスの男子に呼ばれて出ていってしまった。
……大丈夫かな、康二くん。
少し心配する。
「木ノ下さーん」
渡辺くんが満面の笑みで前の席に座ってきた。
「……大丈夫、かな、康二くん。
目黒くんになにかされるかも」
私の言葉に渡辺くんはなぜか不思議そうな表情をするので、
知らないのだろうかと思って慌てて説明する。
……少し言えなかったところはあれど。
「はーん。
なるほど、事情は呑み込めた。
でも……あいつ
向井には怒ってないと思うよ」
断言した渡辺くんに私は驚く。
「……あいつが向井に感じてるのは、
怒りなんかじゃなくて、
――どちらかといえば
………嫉妬心だろうな」
珍しく真顔になった渡辺くんの意図は読めない。
「……どういう意味？
だから川波さんが……」
「木ノ下さんは
大事なところが分かってないよ。
そのせいで
空説が成り立ってるけど
……目黒は
そんな執着心を持つようなやつじゃない。
別れ話を切り出されたらあっさり諦めるようなドライヤローなんだよ？」
変わってはきてるけどね、と
渡辺くんは笑う。
「……あいつも変わる、
あと少しのところになってるのかもしれない」
渡辺くんはそう呟くと男子のところに行ってしまった。
……本当は、
渡辺くんを引きとめて何か知ってることを言ってほしかったけど……。
聞いちゃいけない気がして、
たぶん聞いたとしてもごまかされるだけのような気がして、
……聞くことはできなかった。
でも、
渡辺くんは違うと言った。
目黒くんにそんな執着心はない。
それなら……？
しばらく考えてやっぱり分からないと諦める。
――川波さんならきっと知ってるんじゃないか、
そう思い付き、立ち上がった。
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作者名：いちご | 作成日時：2020年2月11日 11時
