No.70 ページ20
教室まで走る。
渡辺と加藤さんの話がまだ終わってないといいけど、と心配していたが、それは杞憂だった。
部活を休んだと話したら、びっくりした顔をされた。
でも発言通り、気になるのだ。
なぜかは分からない。
だけど、
……泣き虫な木ノ下さんが、
どこかで独り泣くようなことはあってほしくないと思う。
ただそれだけの理由なのかもしれない。
それだけのために、
助けようと思ったのかもしれない。
……それから渡辺と加藤さんが教室に入ってきて、付き合ったと宣言したとき
――木ノ下さんが一瞬、寂しそうな表情をした。
……いや、羨ましいものを、
自分には手が届かないものを見るような羨望の眼差し。
本心を言ってと言ったのに、
彼女は肝心なところを俺に隠そうとした。
……でも、
木ノ下さんが言ったことはおそらく事実だ。
木ノ下さんはもう、俺の助けなんていらないだろう。
……第一、そうなるよう制約を言ったのは俺自身なのだから。
俺と木ノ下さんの関係は、長く続ければ木ノ下さんが過去を忘れようとするのを阻害することがありえた。
だから、一線を引いておいた。
この関係を長く続けるようなことがないように。
……だから木ノ下さんがもういいと言うのなら俺に止める権利はない。
そう、
――そのはずだった。
だけど、
……もしかしたら木ノ下さんが来るかもしれないという淡い期待を持って、
実験室で待っているのは、
……一体どうしてなんだろう。
しばらく木ノ下さんを待った。
そして、やっぱり来ないか、と諦めに似た気持ちが胸を満たす。
時計を確認し、ため息をついた。
……恐らく帰ったんだろう。
今日は特に居残るようなこともないし、
部活もとっくに終わっている。
どう考えても、木ノ下さんが来ることはない。
――もう帰ろう。
そう思ってはいるのに、
あと少しだけ、と待ち続けた。
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作者名：いちご | 作成日時：2020年2月11日 11時
