No.92 ページ42
「……嫌いなんて、思ったことないよ」
静かに、目黒くんは言う。
「……嘘だよ。
じゃあ、なんで関わらないでなんて……」
「木ノ下さんといると自分じゃなくなるから、かな」
困ったように微笑んだ目黒くんに、
私はどうすればいいか分からなくなる。
「……川波さんが俺に言ったことで、
ちょっと困惑してるから、
……木ノ下さんとどう接すればいいか分からなくなった」
……どういう、意味だろう。
「木ノ下さん、
……応えられなくて、ごめん」
切なそうな表情をして目黒くんは……
私に返事をしてくれた。
――分かってた。
上手くいくなんて、期待してもない。
……これで、
完全に関わることはなくなってしまうのかな、と気付いた。
「――分かった。
……ありがとう」
せめて、今だけは
上手く笑えていたらいいな。
そのまま立ち去ろうとしたとき、
目黒くんが呟くように言った。
「………木ノ下さんは、強いよね」
私は驚いて目黒くんの顔を見た。
「……俺なら、関わらないでなんて言われたら、すぐに諦めるよ。
――だって、
好きだったとしてもその人に近付いたら傷付くって分かってるんだから。
……自分を守りたいから」
誤解してるよ、と私は言う。
「……私は、強いわけじゃない。
それは、仕方ないことなんだよ。
傷付くって分かってても、
……好きなんだから」
そう言って、――言い捨てて、
私は逃げるようにその場を去った。
……好きだよ。
だけど、
――もう諦めるから。
本人に言われたら、納得できた。
……傷付くのは怖くなくても、
迷惑にはなりたくないから。
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作者名：いちご | 作成日時：2020年2月11日 11時
