No.84 ページ34
「……なら、いいよ。
まあ、俺がいいとか言っても意味ねえんだろうけど。
木ノ下さんがお前のこと好きなのは、
事実らしいから」
邪魔しねえよ、と渡辺は笑う。
「話したいことがあるっつって学校早く来てもらったのにもう時間だな」
「……鈍い渡辺が、
恋愛を嗅ぎ付けるなんてどういう風の吹き回し？」
「確信してるんだよ、俺。
……お前を変えられるのは
絶対木ノ下さんしかいねーって！」
渡辺は冗談っぽく笑っているが、
おそらく本気なんだろう。
「それで、
俺は木ノ下さんがお前を好きなのか気になってた。
だけど、加藤は好きかどうかとか言うようなやつじゃない。
だから、カマかけたんだよ。
――木ノ下さんは
川波さんが、ら
凛ちゃんって呼ばれてること、知ってた。
でも……それは聞こうとしなきゃ分からないことだろ？
普段の会話じゃ、川波さんの話したってずっと名字呼びなんだから。
そう呼んでるって知れるのは、
……そんな深い仲だって
思い知らされるのは、
お前らが二人で話してる会話を聞いたときしかないだろ」
渡辺の言葉には責めるような意思が含まれていた。
「でも、木ノ下さんは、
まだ……」
俺は呟く。
「それだけ
好きだってことだろ」
そろそろ遅刻だ、と
渡辺は空き教室の扉を開けた。
そのまま出ようとして、立ち止まる。
俺へ振り返って、ため息をついた。
「………言いたくねえけどお前さ、
木ノ下さんを好きになれないなら振るぐらいのことはしてやれよ。
加藤にお前が言ったんだろ？
告白を無下にするなって。
加藤が何回も俺に言うんだよ。
……お前こそ、気持ちを無下にすんな」
先に行くぞ、と
教室に残された俺はうずくまった。
……僅かに、まだ痛む胸。
木ノ下さんがどうなっても関係ないと思うのに、
向井と付き合うかもしれないと思ったとき嫌で堪らなかった。
――どうしてだろう。
考えても答えは出ず、
ただ憂悩するだけだった。
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作者名：いちご | 作成日時：2020年2月11日 11時
