【黒執事】許嫁に愛を籠めて II【チャールズ・グレイ】 (ページ9)

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#59 アイリス伯爵家ページ9

【その伯爵、天才】

菖蒲の名を冠した一族。その家紋は花と剣によって彩られている。そしてアイリス伯爵家。否、アイリス公爵家は英国と共に或るのだ。

ファントムハイヴが絶対の刃で英国を守るのならば、アイリスは絶対の盾で英国を守る。武力で制する、知識で防ぐ。それが役目。

つまるところアイリス家というのは、英智と呼ばれる天才的頭脳。それを英国の為に使い、女王の望むままに国に平和をもたらす為の一族。

『父上もこうだったのかなぁ……』

廊下を歩きながらそう口にする。今までは己の身体能力を生かし、女王に仇なす人物を排除してきた。それを今度は頭脳を駆使して砕く。

今回、陛下は兵器開発をやってのけたという少女と共に使ってほしいという命令だ。だが、自信がないのだ。望みを叶えられる自信が。

「あ、A」

『……チャールズ、』

曲がり角で誰かとぶつかりそうになる。誰かと思えば、白銀の髪を揺らす美青年。Aの婚約者であるグレイである。思わず名前を呟く。

「何、その顔。どうしたの?」

『何でもない。ちょっと眠れなくて』

「嘘。まだメイド服だし、さっき陛下に呼ばれてたってジョンから聞いたよ」

『チャールズこそ、まだ執事服じゃない。消灯時間はとっくに過ぎてるけれど?』

「ボクは見回り」

『……え?だって貴方、この前は見回りなんて仕事は中流階級の奴等がやるべきだって、』

「こ、この前はこの前。今は今!!」

照れたような顔をして、慌てて誤魔化すグレイ。そんな姿を見てAは直ぐに気付く。陛下との越権が終わるまで待っててくれてた。

その事実が何だか焦っていた自分を何よりも落ち着かせた。安堵の笑みが溢れ、クスリと声を上げて笑う。それに驚いた顔をするグレイ。

「え、いきなり笑ってどうしたワケ」

『……ううん、何だかとても安心して』

「……ふぅん。まぁ、あんまりしつこく問いただしたりはしないけどさ、さっきよりもイイ顔してんじゃん?」

そう言ってグレイは悪巧みが成功した子供のような笑みを浮かべて、持っていたランプを揺らした。