【黒執事】許嫁に愛を籠めて II【チャールズ・グレイ】 (ページ14)

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#64 机の上の角砂糖ページ14

【床の上には溢れたミルク】

『……うわぁ』

ミュージックホールで開かれる集会に通って二週間。もう何度目かも分からない声を漏らし、額に手をやる。あぁ、本当に疲れた。

本当に様々な階級の人間が集っていた。その異様な光景に思わず顔を歪める。気持ち悪い。下手に出されている食事にも手が出せない。

近寄ってくる女性を軽くいなし、情報を得ようとするも大した成果はない。強いて上げるとするならば占い師の男。あの男が奇妙だ。

『……接触、は止めておこうかな』

壁に寄りかかり、ワインを飲むフリをしながら男を観察する。調査といえど後任にファントムハイヴが動くのは決まっているのだ。

今回はお偉い方の顔触れや足を運ぶ回数が知れれば良い。そして目的は大体済ませる事が出来た。今日で此処に通うのも最終日である。

「ちょっと貴族様、今日こそはイイでしょ?」

『……うぅん、でも』

「いっつも断ってばっかりじゃない。たまには現実を忘れるのも良い事よ」

そして今日もまた女性に群がられる。ふに、と腕に柔らかいものが当たった。う、と思わず小さく呻く。大きい。何がとは言わないが。

『婚約者がいるって前も話したじゃないか』

慌てて動揺を取り繕い、男性的な声音で腕に絡んだ娼婦に微笑む。いくら中身が女性だからといってこれはマズイ。普通に恥ずかしい。

「……でも、私の方が良いんじゃない?」

『はう、』

あぁ、もうそれ以上胸を寄せないでほしい。Aは嫉妬と恥辱で顔を赤らめ、口をはくはくと開閉するしかなかった。何でこんな目に。

いつもならこんなに積極的じゃないのに。他人がこうして言い寄られているのは大丈夫だが、どうにも自分が女性に言い寄られるのは苦手だ。

というか何度もしつこいかもしれないが胸が。うう、形も大きさも男の理想だ。Aは彼女より二回りほど小さな自分の胸を思い浮かべる。

あぁ、本当にどうしよう。涙目になりそうになったその時、中性的な声が割り込んできた。