〈レッスン場の一コマ 2〉 ページ36
でも、そんな時間は長くは続かなかった。
「……え、活動休止？」
俺が高校二年生になってすぐの頃、
"Aが大学受験のためにジュニア活動を休止する"と聞いたのは、高地からだった。
「本当は言うつもりなかったらしいんだけどさ、きょもと北斗はよく勉強教えてもらってたでしょ？だから二人には言っとけって言ったのに」
ぶすくれている高地をほっといて、俺の頭は真っ白になっていた。
せっかく、距離が縮まったと思っていたのに。
「……なんだよ、勝手にいなくなんなよ」
うっかりこぼした言葉は取り消せなかった。
「きょもがそこまで言うなんて。Aとそんなに仲良かったっけ？」
キョトンとした顔で高地が聞いてくる。
「俺は仲良くなれたと思ってた」
「じゃあそれは俺じゃ無い人に言ってくださーい」
ぶすくれこーち、再臨。
久しぶりに電話をかけた。
2〜3コールして、Aが出た。
「もしもし？京本くん？どうかした？」
変わらぬ声が返ってきた。
「A、俺に言うことあるでしょ」
「え？……優吾が言ったのか」
「別に」
「……ごめん」
「……それは俺のセリフ」
そういう事を言いたいわけでも、聞きたいわけでもないのに。
上手く言葉を出せない。
「……俺、ほんとは休みたくなかった。でもこのままだと学業がまずくて。でも、続けるなら大学までまっとうすることが親との約束で、だから、一回忘れようと思って。だから、何も言わなかったのもある。決心が揺らぎそうで。……声聞いたら思い出しちゃいそうで、連絡もしてなくて、ごめん」
少し鼻にかかったようなAの声ははじめて聞くものだった。
普段、挫折なんか知らなさそうで。
まあ歌は下手だけど。
ここでデビューすることに対して執着が薄そうな奴だと勝手に思っていた。
でも、今「この場所」に居続けたいという気持ちは本物なんだと、彼の声色からうかがうことは簡単だった。
「……待ってるから」
「……うん」
「また、勉強教えてよ」
「……ははっ。あ、それって京本くんの家庭教師になれってこと？(笑)」
「なんでだよ！(笑)」
結局一年間彼は帰ってこず、顔を合わせることもなかった。
高地と北斗はたまに会ってたらしいけど。相変わらず仲がよろしいことで。
次に会った時、俺は二回目の高校二年生、Aは大学一年生になっていた。
「……京本くん、流石にそういう予想はつきませんでした」
「うるさい！」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 238人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：八郎 | 作成日時：2023年8月2日 21時
