5.痛みを感じられるなら ページ7
結局彼が腕から下ろしてくれたのは、それからしばらく経った後。
大きな客室のベッドの上だった。
ふわふわの生地の上にストンと下ろされた身体は、スプリングと共に沈んでいく。
「手当が終わったらまた様子を見に来る」
そう淡々と言った彼は、それ以上何も言わずに部屋を去ってしまった。
一人残された部屋の中、私は何もせずーーいや、主に足のせいで何も出来ずに、ただただぼーっと部屋を見つめる。
やっぱり内装も豪華なお屋敷だった。
大理石の床がシャンデリアの光を反射していた廊下が印象的で、今もくっきりと瞼の裏に焼き付いている。
この客室も、本当に一人部屋かと疑いたくなる程には広い。
「……凄いところに来ちゃったなぁ、私……」
そう、一応私は今、緊急事態なのだ。
今の私には、守ってくれていた村の人達が傍にいない。
(……どうにかして、帰らないと)
みんなのところに、帰らないといけない。
帰って、謝らないといけないんだ。
そう心に決めても、胸中を支配するのは不安ばかり。
(だって、ここにいるのは……)
ここまで運んでくれた人外の彼と、大勢のメイドさん。
人外の彼の従者なのだから、きっと彼女たちも人外だろう。
今、純血の人間である私を取り囲んでいるのは人外ばかりなのだ。
不安以外に、何を感じることが出来るだろうか。
改めて感じた恐怖に、ぶるりと大きく身震いする。
(早めにここを出よう……)
そう決意した私は、青紫色の変色が進んだ右足首にそっと触れる。
ズキ、と痛む足。
大丈夫。
この痛みを「痛い」と感じられる内はまだーー
ーー人間だから。
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ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます!(´;ω;`) (2019年12月11日 1時) (レス) id: 1b1d47c664 (このIDを非表示/違反報告)
はる - 人外の作品大好きです!これからも更新無理のない程度で頑張ってください! (2019年8月11日 21時) (レス) id: 9386fcb447 (このIDを非表示/違反報告)
関西風しらすぅ@坂田家 - うわ…坂田さん可愛い…志麻さんどこいった…好きやわ…人外もんはいいゾ〜 (2019年7月6日 17時) (レス) id: f34e486c2f (このIDを非表示/違反報告)
風空 - 吸血鬼もの大好きです!また毎日の楽しみが増えました(*´ω`*)更新楽しみに待ってます!自分のペースで頑張ってください! (2019年5月27日 22時) (レス) id: 7d8b5dcb68 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:甘夏れもん | 作成日時:2019年5月26日 20時