狭間に生きるモノたち肆【ars 妖怪】 (ページ5)

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私たちに襲い被さるその寸前
海の壁は一瞬で凍りついた。

もしかして…！

後ろを振り返ると、そこには翔が立っていた。
前に突き出していた手をそっと下ろす。

翔｢智くんが先に帰ってきちゃって。すれ違ったみたいだったから、迎えに来てみたら…｣

困ったように眉を下げてこっちに向かって
歩いてくる翔に、なんか、違和感…？

なんかいつもと顔っていうか
雰囲気が違うような…

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『なぜ、お前のような奴がここにおる!?』

海から響く透き通るような声。
微かに震えているように聞こえた。

『雪女め!!』

その一言で私はハッとした。
そっか、違和感があったのは…

顔は元々中性的だったけど、体は鍛えてるからって
翔はもっと男らしい立ち姿だった。

だけど、今は、身体の線が細い。
気のせいかも知れないけど、女性に近い体つきになってるような…

雅｢翔ちゃん、ごめん。オレが…｣

翔｢雅紀。今は、ごめんじゃなくて
他の言葉が聞きたいかな｣

雅紀の言葉を遮り、翔が微笑む。
見とれるほど、綺麗に。
それを見た雅紀が、ぐっと手を握りしめた。

雅｢頼んだ！翔ちゃん！｣

翔｢まっかせなさーい！｣

雅紀の力強い声に応えるように
翔は両腕を広げ
ゆっくりと、海へ手をかざす。

『おのれぇぇえええええ!!』

声は低く唸りながら、遠ざかっていく。

だけど翔は逃がさなかった。

かざしていた手を、1度体に引き寄せる。
翔の周りには雪の結晶がキラキラと煌めきながら
取り巻いていた。

今はまだ夏のはずなのに
翔の周りはまるで、真冬の山の中みたいに
雪が、躍る。

翔｢つかまえた｣

翔は、にやっと笑って
引いた手を海に向かって差し出した。

手をそのまま上へと挙げ、
ぐっと握りしめた時にはもう

海は凍てつき、動かなくなっていた。

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『殺せ』

声の主は、人魚だった。

すっごい美人…声も綺麗だし…
今は睨んでるからちょっと怖いけど。

翔｢殺さないよ。なんかこっちに粗相があったなら謝ります。それでも急に殺そうとするのはいただけないなぁ｣

翔が首を捻ると
人魚は、氷で出来た檻の中でしくしく泣き始めた。

『だって、だって！その女が、あの御方がいるのに、そこの烏天狗と！…うわぁぁぁん！』

｢え、私？｣

ポロポロ涙を流す人魚の背中を、私は訳の分からないまま、人魚が泣き止むまでさすり続けた。