狭間に生きるモノたち肆【ars 妖怪】 (ページ13)

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ーM sideー

「じゃあ、ニノ呼んでくるから！」

翔さんはこくりと頷き床に崩れるように寝転ぶ。
俺は駆け足でニノの部屋に、逃げ込んだ。

…翔さんに、気づかれないうちに。

．

．

．

和「…あらぁ、潤くん。
“当てられちゃってんじゃん”」

ニマニマと意地の悪い笑みを浮かべるニノ。

ついさっきまでゲームをしてたんだろう。
ヘッドホンを頭につけたままだ。

潤「分かってたんだろ？
なんで降りてこないんだよ…」

とりあえずその顔やめろ。
なんか腹立つ。

和「ンもう。ちゃーんと張り紙してたでしょ？」

わざわざご丁寧に手を軽く広げて煽ってくるあたり
本当にいい性格してんなと思う。

…こうやってすぐに頭に血が上る
俺も俺だと思うけど。

潤「あの状態の翔さんは、耐性あるニノしか
どうしようもないだろーが！」

和「ま、確かにそうだよねぇ」

ニノはやれやれと言わんばかりにヘッドホンを外し、机の端に積んであった札を3枚取ると
その内の1枚を俺の胸に押し当てる。

ニノの茶色い瞳が黄金色に輝くと同時に、
札に書かれた文字も柔らかな光を放った。

火照っていた身体が、すぅっと冷めていく。

和「はい、おわり。潤くんはここにいなよ。
わたし、翔さんの相手してくるから」

潤「わかってると思うけど、一応。
翔さん使ったの“魅惑”だけじゃないよ」

「おっけ～」と緩い返事をして、
手を振りながらニノは部屋を出ていった。

潤「……はあー」

本当に溜め息しか出てこない。
バタッと床に倒れ込む。

翔さんが使用した術を見誤った自分の力量不足に、今は呆れることしか出来なかった。

まさか、“氷結”だけじゃなくて“魅惑”まで。
しかもあんなダダ漏れになるくらいの力で使ってたなんて…

気がついたのは、
翔さんの顔を覗いた瞬間だった。

翔さんの目を見た瞬間に
全身が痺れたような感覚に陥った。

翔さんの匂いも、声も、仕草も、
まるで脳を溶かしていくかのような甘い毒になって俺を侵して来たのが、すぐに分かった。

あれが、“雪女”の魅惑…
初めて体験したけど、アレは本当にヤバいやつだ。

潤「…誰に使ったんだ？」

敵に使うなんてあんまり考えられないし。

恐らく、あれだけの力を使ったってことは
誰かが襲われてたのを助けたんだと思うんだけど…

想像だけじゃどうしようもない。
そろそろ翔さんも落ち着いた頃だろうし。

俺はのろのろと立ち上がり、答え合わせをする為
玄関へと向かった。