配合恋愛。 (ページ11)

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「まあ、いいわ。
　とりあえず、佐藤さん連れて入ってらっしゃい。」

「うん、分かった。」

失神なんてするわけがない。
いくら私が男性と付き合った経験がないとはいえ
配合恋愛されました、で失神するというのは
よっぽど純情純白な乙女すぎるヒロインでもない限り不可能だ。

もっとも、
状況を理解していないというのもあるけれど。

「あ、佐藤さん中へどうぞ。」

「ありがとうございます。お邪魔します。」

ぎいっと玄関の扉を開くと
黒光りする大きな革靴が１足置いてあった。

そのとなりに、自分の汚れたローファーを
普段の数倍、きれいに整頓して並べる。

佐藤さんは
華奢な指で自身の靴をつまんで
それを隅にコトっと配置した。

「ただいま。っと、こんにちは。」

スーツの男性も、こんにちは。と頭を下げる。
どこか冴えない営業マンのような見た目に反して
声の張りが良く、笑ったときの歯も白い。

「おかえりなさい。
　勝利く……佐藤さんも、ようこそいらっしゃいました。」

「すみません、お邪魔します。」

母の口から“勝利くん”と聞こえた気がするが
ただの幻聴であると信じよう。
ニット帽を外した佐藤さんの顔立ちが完全に
顔面人間国宝の佐藤勝利くんと一致しているとしても、だ。

スーツの男性に出された麦茶のコップの中で
氷が涼しげな音をたてる。

「あ、せっかくですからお二人で自己紹介したらどうでしょう。
　親御さんには説明も済みましたし。」

待って、親御さんに済んだその説明が聞きたい。
そう言おうとしたとき、

佐藤さんがこう言った。

「佐藤勝利です。
　僕のことを見たことがあるかもしれませんが
　SexyZoneというグループで活動しています。
　配合恋愛はどのように行われるのか分かりませんが
　パートナーになった水沢さんを守れるように頑張ります。
　あ……一緒に住んだら、親子丼も作って欲しいです。」

テレビやポスター、特典映像で見るよりも
生で見る「キュヒ勝利」は美しい。
親子丼のおねだりまでされてしまった……。

家庭科は中学のとき4/5評価だったから
出来ないこともないのかも知れない。

人は非現実を通り越した体験をしたとき
思いの外、冷静になるという。