アルコール52% ページ8
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人が一人通れるか否かの、背中と壁との距離が狭い小さな酒場は、深夜だと言うのにまだ盛り上がりを見せていた
最奥のカウンター席には、辛口のレモンサワーの横に居心地が悪そうにオレンジジュースが並べられている
残り僅かのこんがりとしたきつね色の揚げ物、鮮やかな枝豆の皮は山のように積み上がり、目の前には空き皿がいくつか見受けられる
(うんま!)
アタシがタレの付いたつくね串を頬張る中、軽く酔いが回った彼は炭酸の気泡が上がる透明の飲料を片手にこちらを眺めていた
「この時間にバクバク食べたら太るよ」
「うっせ。こちとら昼から何も食ってねぇんだから仕方無いだろ。あ、これも美味い。もう一本いけるな」
気にも留めず二本目の竹串に手を伸ばし、大きくあ、と口を開けると、隣から刺さるような視線を感じた
「んだよ」
「いや。大抵の女の人ってそう言うの気にするんじゃないの?
・・・・・・あぁ。Aは違うから気にしないのか。ごめんごめん盲点だった」
「だぁッ!さっきから喧しい奴だな!食う気失せるわ!」
食べようとしかけていた濃厚なタレのかかった柔らかいつくね串を元の長皿へ戻し、堪らず彼の顔を見上げるとアタシの一喜一憂にけたけた、と楽しそうに笑っていた
続いて、こちらに向けて頬杖を付き、琥珀色の瞳に捕まる
「嘘だって。続けてよ。Aが美味そうに食べてるのこうやって見てるからさ」
「あ?アタシって動物園のパンダか何か?見世物じゃねぇぞ」
「食いっぷり良いって褒めてやってるんじゃん」
「んな良い風に聞こえねぇつーの!」
笑えない漫才を聞くのに似た居心地の悪さを覚えた
(何かに付けて揶揄ってきやがって)
そう思って睨んでいると、横で何杯目かのレモンサワーを飲み干していたもので、グラスに残った氷がカラン、と音を立てる
(そう言えば・・・・・・)
「お前。飲んでばっかで食ってないだろ」
「あ〜。ホントだ。働いた後は食欲湧かないんだよね」
「相当疲れてんだな」
「そう?社会人って皆こんなものでしょ。晩飯抜きなんてざらにあると思うけど」
端正な顔立ちに似合わない目の下の黒い隈を見ていると労いの気持ちが湧いてくる
そぎ型の焼き鳥皿に残った一本のつくね串と目が合って、アタシは気が付けば竹串の先端を彼の口元に向けていた
「何してんの」
「食えよ」
「は?」
「良いから食え。そもそもお前が誘ったんだぞ」
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しがない物書き(プロフ) - ゆあさん» 嬉しいご感想ありがとうございます!イケメン委員長がしっかりイケメン委員長していたようで良かったです✨️よろしければこの先もご覧くださると幸いです! (4月18日 12時) (レス) id: be0c646a52 (このIDを非表示/違反報告)
ゆあ(プロフ) - 磯貝くんのイケメン度が忠実に再現されてて、好きです。更新頑張ってください! (4月17日 23時) (レス) @page43 id: e604285060 (このIDを非表示/違反報告)
しがない物書き(プロフ) - たにさん» コメント嬉しいです!!🤤 たに様のメッセージで筆が乗ります! (3月25日 18時) (レス) id: be0c646a52 (このIDを非表示/違反報告)
たに - 面白かったです! (3月25日 13時) (レス) @page38 id: 9b7538881a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しがない物書き | 作成日時:2023年12月20日 3時