アルコール84% ページ40
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(居た。悠馬だ)
冬本場の乾いた空気が火照った頬を風を切るようなスピードで掠めて行った
こちらには気が付かず先へと進んで行く彼を焦がれるように追い掛けて、咄嗟にノーベントのスーツを背中から引っ張る
帰宅ラッシュ中の駅構内のざわめきは全く耳に入っていない
肩を後ろに捩ってこちらを覗く彼の顔が、スローモーションの如く映って、息を飲んだ
「Aさん」
「ウッス」※訳:こんばんは
捻り出した声は幾分小さいもので、自分の身体のコントロールが既に奪われてしまっていると瞬時に悟る
それを自覚すると急に、心音だけが頭の中を支配して、予め考えていた台詞が何も浮かばなくなった
舞台の台本を忘れてしまったような感覚だった
「どうかしたか?」
「え、あ。えっと。お前に用事があって」
「俺に?」
(やばい。何て切り出そう)
伝えたい事が山程あるのだ
「その日、過去一で人数集まりそうだからさ。せっかくなら参加どうかなって思って」
あの日お前から電話で誘って貰えたから、アタシはクラスメイトの輪にもう一度戻って楽しい時間を過ごしているし
「お酒も仕事も無理せずに。全部Aさんのペースで良いからな」
そう言ってくれたから、世間に置いて行かれても焦る必要なんて無いと気が付けた
「悪ぃな。飲め無くてつまらないだろ」
「いや、可愛らしいよ」
「はぁ ! ? ! 」
── そしてアルコールを飲んだのはきっとあの瞬間
恋心が全身を駆け巡ると、あっという間に脳を麻痺させて、酔った状態を作り出した
自己評価の低いアタシを鼓舞してくれる悠馬に、酩酊している時間はとりわけ楽しかった
素敵な気持ちをくれてありがとう
脈が無いのは分かっているから、せめて彼にそう伝えたかったのだ
「大丈夫か?」
「あ、あの。悠馬」
「うん?」
長いこと考えに更けっていたアタシを不思議そうに見ている
今から告白されるなんて微塵にも思っていなさそうで、こちらの一方通行だと思い知らされた
片想いの潮時に胸が締め付けられた切なさと、緊張が入り交じって頭の中が余計にぐちゃぐちゃとする
「アタシお前に言いたいことがあって。驚かせると思うけど」
「うん。何だろう」
「えっと。いつも気に掛けてくれてありがと。
・・・・・・アタシ、前から悠馬のことが」
好き ── と言いかけた時だった
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しがない物書き(プロフ) - ゆあさん» 嬉しいご感想ありがとうございます!イケメン委員長がしっかりイケメン委員長していたようで良かったです✨️よろしければこの先もご覧くださると幸いです! (4月18日 12時) (レス) id: be0c646a52 (このIDを非表示/違反報告)
ゆあ(プロフ) - 磯貝くんのイケメン度が忠実に再現されてて、好きです。更新頑張ってください! (4月17日 23時) (レス) @page43 id: e604285060 (このIDを非表示/違反報告)
しがない物書き(プロフ) - たにさん» コメント嬉しいです!!🤤 たに様のメッセージで筆が乗ります! (3月25日 18時) (レス) id: be0c646a52 (このIDを非表示/違反報告)
たに - 面白かったです! (3月25日 13時) (レス) @page38 id: 9b7538881a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しがない物書き | 作成日時:2023年12月20日 3時