アルコール63% ページ19
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「そんなとこで突っ立って無いで早く片付けるよ」
同じ場所にしばらく立ち続けている彼女に、俺は小言を放った
食べ散らかして行った酔っ払い共の後片付けを、磯貝のように率先して行う性分では無いが ──
「お前しか頼れる人いないんだから」
(あんな顔されるとねぇ)
流石に一人にして帰る訳には行かなかった
彼女の弱った顔にまんまと現を抜かされてこの場に拘束されたことに不服な心持ちになる
かく言う当の本人は一切片付けを開始する素振りが無いもので、聞いてる?とAの目の前に回った── その瞬間のことだった
(え。泣いてるじゃん)
日本酒の盛りこぼしのように今にも溢れかえりそうな涙が浮かんでいて、俺は咄嗟に駆け寄る
「どうしたの。磯貝と何かあった?」
「わ、悪い。何でも無いから。アタシも今から片付ける」
ぼたた、と零れ落ちていった大きな雫を手の甲でしきりに拭って、無理やりに作った顔で食器をかき集めようとしている
(平気じゃないくせに)
そんな強がりな彼女を見ていると、とても居た堪れなくなって手首の辺りを強く取った
「待って。流石に見過ごせない」
「離せってば」
昔からこの顔が苦手だった
普段の男勝りな彼女からはとても想像が付かない ── ふ、と吹き掛けると今すぐにでも消えてしまいそうな泡のようで
壊れないように優しく包んでやりたくなった
「んなっ。何してんだ」
「そんなぐちゃぐちゃの顔されて放っておける訳ないでしょ」
「お前の高そうなスーツが汚れる」
「良いよ。好きなだけ濡らしなよ」
「・・・・・・っ」
彼女は力無く、俺の胸元で反発をしている
(意地っ張りだねぇ。こういう時くらい俺に頼れば良いのに)
「何言われてもAの気持ちが晴れるまでずっと離さないから。もう我慢せずにここで泣いた方が楽じゃない?」
そう言うと段々と彼女の肩の力が抜けていって、いっぱいになっていた表面張力が崩壊を始めた
「うぅっ。アタシ泣いてなんか無いから」
「はいはい」
「お前が優しくしたのが悪いんだぁ」
「うん。そうだね」
負けず嫌いで他人に弱い部分を見せられない彼女が、背中に腕を回して甘えるように抱き付いてくると
(ああもう)
あの日よりも強くはっきりと酒の回る感覚が起こった
(出来たら気が付きたくなかったわ)
── 貴方への恋心はアルコールが身体中を巡るかのように加速する
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しがない物書き(プロフ) - ゆあさん» 嬉しいご感想ありがとうございます!イケメン委員長がしっかりイケメン委員長していたようで良かったです✨️よろしければこの先もご覧くださると幸いです! (4月18日 12時) (レス) id: be0c646a52 (このIDを非表示/違反報告)
ゆあ(プロフ) - 磯貝くんのイケメン度が忠実に再現されてて、好きです。更新頑張ってください! (4月17日 23時) (レス) @page43 id: e604285060 (このIDを非表示/違反報告)
しがない物書き(プロフ) - たにさん» コメント嬉しいです!!🤤 たに様のメッセージで筆が乗ります! (3月25日 18時) (レス) id: be0c646a52 (このIDを非表示/違反報告)
たに - 面白かったです! (3月25日 13時) (レス) @page38 id: 9b7538881a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しがない物書き | 作成日時:2023年12月20日 3時