兆し(5) ページ10
【一期一振side】
「いち！」
Aが私を呼んでいる。暖かな声で。無垢な笑顔で。
「A！」
私は手を伸ばす。自然と頬が緩んだ。
この腕にAを抱き止めると、温もりと共に思い出が溢れてくる。
しかし、突然Aは顔色を変えた。
今にも泣き出しそうな顔で笑いながら「決めたの」と言う。
「な、何がだい？」
その言葉の意味なんて分かっているのに、敢えて聞く私は信じたかったのだろうか。傷つきたくなんてないのに、自ら傷つこうとしている。
「私ね、」
嗚呼、聞きたくない──
「お父さんとお母さんと暮らすことにしたの」
温もりが離れていく。「ごめんね」と言いながら、遠ざかっていくA。
待ってくれ。行かないでくれ。
私は必死に追いかけた。
暗闇の中でひたすらにAの後ろ姿だけを追った。彼女は歩いているはずなのに、私が走っても追い付かない。
仕舞いに。
Aは幸せそうな男女に駆け寄った。それはいつか、史埜様に見せてもらった写真の中の人物。Aの実の両親だった。
三人で笑い合う光景。
胸が切り裂かれるように痛んだ。
「君達のしていることは、人の真似事でしかないんだ」
男性が放った言葉が突き刺さる。
人の真似事。Aを育てたことを否定されているように思えた。人と神。交わらない存在。いくら顕現され、人の身を得たとしても、私たちは人間ではないのだ。所詮は真似をして居るだけでしかない。
「自分たちがAの家族だと思っていたの？」
「Aの幸せは、私達のもとで暮らすことだ」
「いち……さよなら」
──
「はっ……」
目を覚ますと、そこは変わらない部屋だった。
Aの両親はいない。その事に安堵し身を起こせば、全身に汗をかいていた。
……あの夢を見るのは、これが初めてではない。
気丈に振る舞っていても、情けなくも弱い心が見せる悪夢だった。
弟たちはまだ眠っていて、明け方だと言うことがわかる。
私は彼らを起こさないようにそっと布団を抜け出すと、箪笥を開けた。
そこには数枚の紙。
「はは……」
それはAが幼い頃に描いた、私達の似顔絵だった。拙い字で書かれている『大好き』の文字さえも愛おしい。
──願うならば、ずっとここにいてほしい。
そう思うのはいけないことなのだろうか。
果たして、A自身の幸せとは何なのか分からなくなる。
私は絵を握りしめて、声を押し殺しながら涙した。
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華音(プロフ) - 初めまして（＾ν＾）刀剣乱舞大好きで笑ったり泣いたりと忙しかったですが面白くて一通り全て読ませて頂きました♪ただ全体的に所々ですが誤字脱字や一文字抜けている文章等が御座いましたので^^;御報告致しますね。ではこれからも頑張って下さいませ(*^^*) (2021年7月20日 21時) (
レス) id: 85eea2d6ee (このIDを非表示/違反報告)
華骸(プロフ) - 胡蝶さん» コメントありがとうございます！ほのぼのと言う事を目指していたので、変に恋愛に持っていかなくて良かったと今しみじみと思っております。長かったにも関わらずご愛読頂きありがとうございました！ また別の作品でもよろしくお願いします(*´∀｀) (2018年4月10日 19時) (レス) id: 31ae3f7e34 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶 - こういう恋愛の絡んでない感動ものの刀剣乱舞の作品をずっと見たかったので、本当にありがとうございました。完結もおめでとうございました。他に何か書くことがありましたら、また立ち寄らせていただきます！ (2018年4月8日 0時) (レス) id: 28e84465b3 (このIDを非表示/違反報告)
華骸(プロフ) - いぬみみさん» コメントありがとうございます！二年もかかってしまい本当に申しわけありません！ でも見放さずにいただき嬉しいです(´；ω；｀)最後までご愛読いただきまして本当にありがとうございました！ (2018年3月28日 21時) (レス) id: 31ae3f7e34 (このIDを非表示/違反報告)
いぬみみ(プロフ) - 完結おめでとうございます！そして、お疲れ様でした。心が暖かくなるような素敵なお話を読ませていただいて本当にありがとうございます！！これからの更新も楽しみにしてます！！ (2018年3月28日 15時) (レス) id: 92e3954afa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：華骸 | 作成日時：2017年1月14日 21時
