夜更かし吸血鬼と臆病な子【zh】

▽ ページ30

英雄。勇者。
称えられ、崇められる存在は、必ずしも初めからだとは限らない。


ジャンヌは火炙りの刑になった。




英雄は、


死した後に、


真の英雄になるのが、物語の結末(さいご)だ。









話したいことが山ほどある。

伝えたいことが死ぬほどある。



行かなくちゃ。

行かなくちゃなのに。




体が大きく回って、さっきまで自分が立っていた屋上が見えた。

ぐらんと揺れた腕は、真っすぐ前に伸びている。


そして、見えたのは屋上の柵に取り付けてあったロープだ。

こちらへ伸びている。

届く。手を伸ばせばまだ助かる。





全てがスローモーションに見えた。



落下していく自分自身も。

靡く制服も。

曲がっている鉄も。

目の前を落ちていく雨の雫も。





手を
伸ばせば、

まだ。








でも









Aは、ゆっくり瞼を閉じた。


暗い底へ、落ちていく覚悟をして。




虚ろになってしまった目に、もう何も映したくない。

そんな悲鳴が、心の中で轟いた。



ごめんね葛葉。

ごめんねみんな。




落下していくスピードは段々と早まっていき、次第に何も感じなくなった。

恐怖も、孤独も、悲しみも、苦しみも。


ただ、自分に関わった人全員への謝罪が、体中を埋め尽くした。









その時、体になにかがぶつかって、


大きく迂回して

空へ

向かっていった。

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