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涙が止まって、赤くなった彼の目
そこには少しだけ開いた彼の心が表れていた
なんの確証もないけれど
今手放したらきっと同じことを繰り返す
今見失ったら彼は2度と戻れない道を進み出す
それだけは避けたかった
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陽も傾き始めて、誰もいなくなった公園
わたしたちふたりの影だけが伸びる
出会ってから、また1時間くらいしか経ってないのに
わたしたちの間に流れる空気は
少しだけ和らいだ
「 あの、名前、」
あんなに大胆な行動をしておいて
今更、名前すら知らなかったことを思い出す
『 ユウト。優しいに北斗の斗。そっちは 』
「 Aって言います 」
『 へー、いい名前じゃん 』
「 そう、ですかね 」
友達でも、恋人でもない、他人でもないこの関係
正しい接し方なんて、お互いに分からない
変な間で、沈黙が流れる
ぴろりん、ぴろりん、
わたしの着信音が、それを破った
「 もしもし、」
( お嬢様! どこにいらっしゃるんですか! )
耳を突き抜ける執事の焦り声
言われてみれば、もう帰っていてもおかしくない時間
「 ごめん、景色眺めてたらつい、」
( お車も直ったので、お迎えに行きますから! どこまで行けば宜しいですか! )
「 じゃあ〇〇公園の近くまで 」
( わかりました、そこで待っててくださいね! )
釘を刺されて、電話が切れる
「 優斗さん、わたしもうすぐ迎えに来るんですけど、」
『 俺が帰らないで、って言ったら? 』
制服の袖を引っ張ったその力が
明らかに男の人の力で
わたしは何も言えなかった
『 うそうそ、帰りな 』
ぱっと手を離したその顔は
笑っていたけどどこか寂しげで
もう、会えなくなる気がした
『 じゃあね、』
そうなることを、わたしの本能が拒んだ
「 あのっ、」
『 ん? 』
「 わたしの家、来ませんか、」
『 えっと、それはどういう意図で? 』
「 不安だから、優斗さんがまた消えそうになるんじゃないか、って。
それじゃ、だめですか 」
『 だめ、っていうか、だめじゃないの? 』
「 いいんです、わたしの言うことはみんな聞いてくれるから 」
『 ..... ごめん、やっぱいいや 』
優斗さんがわたしに背を向けて歩き出した時
迎えの車が着いた
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みく(プロフ) - 3年前に読ませていただいていたものです。再連載とても嬉しいです。また定期的に読みに来させていただきます。 (2021年9月15日 21時) (レス) id: a0c149052c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:k | 作成日時:2021年8月24日 22時