フリージア (ページ8)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:8,717 hit

7 . ページ8

.

｢何してるの、そんなところで、｣

その人は、欄干に腕をかけてつま先で立ったまま

『分かんない？死のうとしてるの』

｢どうしてそんなこと｣

分かってる、お節介だって

けれど、この男の人をわたしは見過ごすことが出来なかった

『どうして、って、死にたくなったから』

｢何言ってるの！｣

思わず、叫んでいた

｢死にたいだなんて簡単に言わないでよ｣

『あんたに俺の何が分かるわけ』

返す言葉も、返せる言葉も、何もない

｢わたしはあなたのことを何も知らないわ。ただの通行人だから｣

『だったらほっとけよ』

｢でも！｣

知ってる、この顔は

頬にさえ色のない真っ白い肌に、虚ろな目

彼はきっと、愛を知らない

いつか鏡で見た、自分の顔に重なった

｢わたしはあなたを放っておけない｣

『なんでだよ、関係な

｢わたしとあなたは、同じだから｣

遮るように言葉を継ぐ

『 ...... 意味わかんねぇ』

｢わたしは ...... あなたと同じく、愛を知らない｣

その言葉は、自分の胸にも突き刺さる

彼は、その場に座り込んだ

『なんで分かんだよ』

｢なんでって、

『俺ってさ、いなくてもいい人間なんだわ』

投げやりなその言葉は

愛されることを放棄していた

生きている感じがしない彼は

全てを塞ぎ込んでいる

それは、積み重なった我慢とか表に出せない怒りで

その蓋は、わたしもおなじだ

その隙間に入り込むには

『つーかあんた、わっ』

こうすることしか知らなかった

『、いきなり抱き着くとか気持ち悪いんだけど』

｢あなたはもう十分我慢してる人だから、もう我慢しなくていいと思います、｣

何も知らない

何も知らないのに、知っている

この感覚

『っ、』

肩に顔をうずめて泣いているその感覚

何の記憶かは、分からなかった

『俺っ、親に愛されたことなんて1度もなかったっ、』

嗚咽の隙間から聞こえるその声は

生きていた

『こうやってされたこともっ、1度もなかったっ、』

それだけ言って、また彼はただ泣いた

.