はちみつのようにとろけたあとは。 (ページ1)

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⋆*

〝次は～、～です〟
〝Next station is～〟

橙色と紺色のグラデーション。
その下で、次々に街の灯が色づいていく。

『懐かしいな、この感じ。』

そう隣で呟く、私の想い人。
彼の表情は、いつにも増して優しげだった。

『…ねぇ、あの時なんて言ってたの？』

｢あの時？｣

『とろけて…とか何とか言ってなかったっけ。初めて会ったとき。』

｢えーっと……｣

｢…あっ｣

思い出した。
初めて会ったときも、確かこんな風景だった。

その時と時間軸は違ったけれど、
街を彩る景色がまるで、

｢はちみつみたいだったんです。｣

『はちみつ？』

｢はちみつに光が当たったようにキラキラ輝いて見えて、そしてそれが｣

『とろけるように柔らかかったんだね。』

『Aちゃんの感性は本当に凄いな。笑』

ははっ、と目尻を下げて笑う須貝さんの表情を見ると、こちらも幸せな気持ちになる。

まさかこんな関係になるなんて、
あの時の自分は思いもしなかったな。

『この事、伊沢たちに報告しないとな。』

｢どんな反応されますかね。笑｣

『どうかなぁ…意外と淡白な気がするんだよなぁ』

｢確かに、｣

お互いどこかぎこちなくて、
最寄りまでのあと二駅がとても長く感じる。

須貝さんが、私の彼氏。
私の恋人だなんて、
今でも信じられない。

『…』

彼は後ろを振り返り、
窓の縁に頬杖をついて外の景色を眺めている。

…その表情に見とれていた。

私の右手に覆い被さる、大きなぬくもり。
指と指のひとつひとつの隙間に埋められるように、
ぎゅっと優しく包み込まれていく。

『嫌だった？』

｢いや、｣

『え、嫌！？ごめん！』

｢嫌じゃない！｣

『どっち！？』

｢い、嫌じゃないですむしろ、｣

握っていてください。

なんて言葉は、恥ずかしすぎて言えなかった。

『わかった』

そして再び訪れたぬくもり。
何を言わなくてもわかってくれるんだ。

『電車、満員でよかったかもね。』

｢なんでですか？｣

『だってほら、誰も自分らの話に夢中で、俺らのことなんて気にならないじゃん。だから、浸ってられる。』

ね、そうでしょ？

そう言った彼の頬は、珍しく赤らんでいた。