一郎が消える話 (ページ10)

今日:7 hit、昨日:0 hit、合計:15,418 hit

決意ページ10

一度我慢をやめたらもう止まらない。

本当は宣告を受けたあの日から俺の背中は冷たいまま。

最後の時まで1人でこの事は背負うはずだった。

でも、温かくて逞しい腕が俺を支えてくれた時、一気に止めていた恐怖が襲ってくる。

怖い。

それ以外の感情なんてなくて、ひたすら弟の腕の中で震える。

2｢大丈夫、俺がいるから…！｣

その言葉に反し、二郎の身体は震えていた。

お互いに目を腫らし、喉も掠れて、声が思うように出ない。

そんな目の前の弟が俺の瞳に映ると不思議と恐怖の中にも小さな光が差す。

…俺が守らなきゃ。

あと半年しか生きられないなら、この残された時間で弟達を守らなきゃ。

そう思った時、俺の中で迷いは無くなった。

1｢ありがとう、じろくん｣

優しく二郎の腕をほどき、その手を握りしめる。

1｢…ありがとう｣

俺がそう言って微笑むと、二郎もまた静かに涙をこぼす。

1｢じろくん、ちょっと協力してほしいことがあんだけど…いいかな？｣

面と向かい合った状況で俺がすぅっと息を吸い、二郎へ言った。

1｢約束してほしいことがある。
この事は、俺が死ぬまで下の弟達には言わないで｣

俺の言葉を聞いた瞬間の二郎の目は大きく見開いていたが、しばらくの沈黙の末彼の口から出た言葉は短い了承の言葉だった。

1｢…あと、もうひとつ。
俺にも、弟達にもいつも通りに接して｣

それが俺が二郎へと出した約束事だった。

難しい事だと自分でも思うが、これ以上心配はかけさせたくなかった。

特に三郎はストレスが身体に出やすく、みんなの感情も受け取ってしまうことがある。

三郎が元気ないと家の中も明るくならない。

それに、四郎と五郎は今年受験を控えてる。
俺のせいで行きたい高校に行けなくなるということはすごく嫌だった。

1｢ごめんね、じろくん…こんな兄ちゃんで｣

二男にばかり負担を背負わせてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

でも二郎はそんな俺に向かい、真剣な面持ちで言った。

2｢今まで長男の一郎くんにすごい迷惑かけた。
一郎くんが影で色々してくれたの気付いてた。今度は俺を頼って｣

その言葉を聞いた瞬間、俺はなんだか救われた気がした。