第49話 ページ11
羽風｢ねぇアドニス君｣
放課後。珍しく軽音部部室に顔を出した羽風薫は、制服姿のまま、椅子にもたれ掛かっていた。
練習着に着替え、今まで練習をしていた乙狩は、水の入ったペットボトルを片手に、羽風薫に名を呼ばれて振り返る。
乙狩｢なんですか。羽風先輩｣
羽風｢番組って、なに？｣
乙狩｢番組…？テレビとかでやっているやつじゃないんですか？｣
羽風｢そう、だよね〜…そういうもんだよね〜｣
大神｢んなに気になんなら行けよ｣
イライラしていたのか大神は座っている羽風薫の座る椅子の背もたれを蹴った。
反動で立ち上がった羽風薫は、痛いなぁと苦笑い。
大神｢こんなとこでため息吐かれるよりマシだ。つーか、グイグイ行かないなんて、テメェらしくねぇ｣
羽風｢俺らしく…か｣
大神の言葉にそうだよね…と、呟き、彼は明るくその場を出ていった。はっとして、大神が練習しろよ！！と、叫ぶ。
部屋の隅で休んでいた朔間は、そっと微笑をこぼした。
羽風｢Aちゃん…｣
放送部部室前。
ノックしようと、手を空へ上げた瞬間。
貴｢私の目には、新たな世界が映りこんだ｣
いつもとは違う口調。
いつもとは違う声量。
貴｢手を引かれ向かった場所にあった広い海が私の視界を青で埋め尽くした｣
そっと扉を開けて、隙間から覗き込む。
貴｢そして彼は私に向かってこう言ったのだ｣
後ろ姿だった彼女は、本を片手に持ちながら、優しく口元を上げて、
貴｢『ここにくるとな、元気が出るんだ』｣
先程のとは声の高さが違う。恐らく、男の子…青年を演じているのだ。
貴｢『海の広大さ、青の色、そして潮の匂い…風に乗ってやってくるんだ』｣
ただの言葉が羽風薫の目の前を、塗り替えていく。
貴｢『いつもそれが浮かぶ時、いつも俺の隣にはお前がいた。お前が、それを乗せてきたんだ。カオル』｣
羽風薫に気づいた私は、持っていた本で顔を隠して、昏倒しそうな勢いで部室の奥へと潜った。
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作者名：�� | 作成日時：2017年10月28日 21時
