疑惑6 ページ22
「大変だったね。」
ぽつり、と呟くように北斗に投げかけた。
「でも、まあ、オレが100わるいから。」
北斗が窓の外に目線をやる。
その瞳はいつになく暗い気がした。
「…私ね、こんなに恋愛に振り回されたの初めてかもしれない。」
「そうなの？」
「うん、なんだか私が私じゃないみたい。でも嫌じゃないっていうか。北斗以外だったらそう思えない気がする。」
思い返せば今までの人生、好きな人がいて失恋したり何か言われたとしても、一人で勝手に傷ついてふさぎこんでその恋は終わってた。
でも北斗と出会ってからは、なにか起きてもどうにかしたいと思って大胆な行動に出ることが多い気がする。お酒の力を借りたりなんかして情けなくはあるけれど。
いつだって北斗のことは諦めたくない自分がいる。きっとこの気持ちを大切にしたいし、気が狂いそうなくらい実は北斗のことが好きなんだと思う。
「ふふっ、SixTONESの曲にさ、そういうのあるよ。『僕が僕じゃないみたいだ』って曲。」
歌とリンクして面白かったのか頭を預けていた肩がゆれる。今日初めて北斗の笑顔を見れた。
北斗が笑ってくれて、私の口元にも笑みが浮かぶ。こういうのを幸せっていうのかな。
そんな会話をしていたら私の家まであっという間にタクシーは到着した。酔っ払ってて心配だから、ってどこまでも優しい北斗は玄関まで送ってくれる。
玄関前でようやく別れを告げた。
「じゃあ、またねA。あったかいカッコして寝るんだよ？」
「うん。ありがとう。北斗もね。」
「そりゃあもちろん。でさ、もうちょっとバタつくと思うけどなんとかするから待ってて。」
そう言って北斗に手を握られた。
ゴツゴツしたおっきい手。私の手をすっぽり包んじゃうくらい大きいけれど、きっと不安でいっぱいなんだろうな。
「うん。待ってるね。」
この一連の騒動が落ち着くまで連絡は控えようと思った。もう酔っ払った勢いで突撃なんかしない。
「落ち着いたらまたデートしよ。」
ゆっくりまばたきをする北斗がにっこり笑ってささやいてくれた。
どこまでもずるい人。だってその笑顔で、さっきまでツラかった気持ちはどこかへふきとんでしまうのだから。
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作者名：あん | 作成日時：2023年10月19日 2時
