＿＿君を忘れたくない【場地圭介】

26話 ページ27

「でももう、感覚も徐々に無くなってきているはずだｯ
味覚はまだあるのかい」


「辛うじて……」


死んでしまう前は五感を失うだなんて小説でありがちだな、
けど、残酷だよね……最後まで残るのは”聴覚”なんだから……



「五感が無くなり始めたらもう進行は早くなる……お願いです、入院をしてください」


「……先生。次、私が倒れて運ばれたら、その時は入院する。だから、
それで許して……お願い」


「…………分かりました……しかし本当に体調が悪くなればすぐに病院に来てください」





Aは病気、この話を聞く限り、治らない病気だ


そんな病気と闘っているのに、あんなに明るく接していた


「おいマイキー、出てくるから早く行くぞ」


ケンチンに捕まれ出口に連れていかれる



「まっ、Aがっ」


「馬鹿か！俺らがここに居て聞いていたことを知ればアイツの居場所を無くしちまう事になる！！」



1番仲のいい場地にも言っていないことを、不本意で俺たちに聞かれて、
きっとあの子は気を使う。

あの子は今の3人で馬鹿やってる日常が大事だと言ったんだ……


黙って出口に行くことにした



無事……バレることも無く外に出ることが出来たが、重たい雰囲気になった


「ケンチン……なんで、あんなにも優しい子が死ななきゃいけないのかな……」


「…………腹、減ったな。」


「……うん。」









また前より薬の量が増えた
増えたって変わらないのに。



家に帰って時間を見ればまだ5時までに時間はあった

ふと用事が終われば行くと、場地君と約束したことを思い出した



「ママ、場地君の所に行ってくる」


「……うん、行ってらっしゃい」


ママ、ごめんね、ごめん。無理して笑わせてごめん。わがままでごめん。

そう伝えたいのに、全てを言葉に出来ずに喉につっかえて、戻ってくる
戻ってくる度に心臓が掴まれたかのように痛くなって、苦しい


いつになったら、この痛みから解放されるのだろう





私が外に出ればきっとママは泣いている

いつもいつも、ママは私がいないところで泣いている


知っているのに何も出来ない私は弱虫だ



夕方だと言うのにまだ日のてる炎天下の中、力強く握る手には汗が染みた





ﾋﾟｰﾝﾎﾟｰﾝ



「空いてんぞー」


「いやそこは開けてくんないの？私客ぞ？」


「んじゃ入ってくんなー」


「ふざけ。」



ｶﾞﾁｬｯ


もう何度目かの場地君達の団地、初めて会った頃近くにあるって言ってたけど本当に近くにあった


歩いて1分だよすごくね。

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