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..




なんで先生がそんな顔するの
泣きたいのは私のほうだよ。




先生は俯いて言った






「Aは生徒だよ。生徒に特別なんてあるわけない」






それは自分に言い聞かせているようにも見えた。


ゆっくり
噛み締めるように。




先生の左手の薬指が皮肉にもきらりと輝く。







「A。よく聞いて」
「…はい、」




「世界にはどれだけ純粋で
ふたりが同じように想い合っていても
許されないことってあるんだよ」







綺麗に微笑む先生の
初めて見る表情だった。







「……先生」
「うん」
「ひとつだけ お願いがあります」







..





その日の夜
私は学校の近くの海で先生を待っていた。



来るかわからなかったけど
先生ならきっと来てくれると信じて。







「A」







ほら。

先生のそういう優しいところ大好きだけど
嫌でも期待しそうになるからやっぱり嫌い。





暗くて静かな海の前にジフン先生とふたり

これでもう、最後にするから。







「最後に一緒にやってほしくて」
「花火?」







夏が来る前に先生としたかったこと。
線香花火。



私からそれを受け取った先生は
砂浜に座る私の隣に腰かける






「この花火が消えるまでは、先生のこと好きでいる」






私は二人分の花火に火をつける。







「でも花火が消えたら、もう先生への気持ちは終わりにします」







先生は表情を変えないまま
じっと火のついた線香花火の先っぽを見つめる。






「許されないんだもんね、私たち」






火玉が大きくなる。

ぱちぱちと短くなっていく花火はまるで
私へのカウントダウンだった。






「先生、その相手の人と幸せになれるかな」
「…」
「私の幸せ願ったりしないでね。報われないじゃん」






強く風が吹く。

私の火玉だけが虚しくも地面に落ちて
カウントダウンはもう、ついにゼロになった。




先生はまだ残っている自分の火玉から手を離して
私の頬を優しく撫でる。





近くの波音さえ聞こえなくなって、
もしかしたら今この世界には



私と先生しかいないのかもしれない。







「ごめん」







傾けながら近づいてくる先生の綺麗な顔

逃げようともしなかった私と先生の唇が触れる。







「…っ、」







目を閉じて、
彼の温もりを感じる。







「好きだった、すごく」
「…うん。私わかってたよ」







さよなら、ジフン先生。



初めてのキスは
夏の切ない味がした。



-fin

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作者名: | 作成日時:2023年11月1日 14時

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