陽炎 (ページ5)

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２：火花ページ5

..

数学、32点。

中間テストの結果

それなりに散々な結果と点数の下の
チェックマークに口角が緩んだ。

「やった、赤点だ…！」

無意識に声を出してしまい、
慌てて口を塞ぐ。

私は中学の頃から数学が得意だった。

去年の学年末テストで
学年2位をとったくらいには。

「点数の下にチェックマークが書いてあるやつは補習なー」

けれど

高校2年生になった今、数学の成績どころか
私の人生は、この人にかかっているのだ。

チョークを握る男らしい右手

生徒全員の顔がよく見えるようにと
授業中にだけかけている眼鏡姿

不意に窓の外を見たときの横顔。

言いだしたらキリがないほど

全部ぜんぶまとめて、
私はジフン先生が好き。

..

「A、おまえ去年まで数学の成績トップクラスだったらしいじゃん」
「ううん。偶然です」
「なんで一年も経たないうちにこうなるんだよ？」

先生にとって手のかかる生徒になりたかったから。

それと、この補習が私にとって
唯一の先生との時間だから。

うーん、と私の成績を見て唸る先生は
私の気持ち、どこまで知ってるの？

「先生、私ひとりのために補習するの嫌？」
「嫌もなにも、それが仕事だからな。私的な感情は一切ないよ」

放課後
夕方の教室に先生と二人。

優しい表情とは裏腹に、つんと跳ねのけるみたいな言い方。

先生はいつもそうやって

私との距離を静かに遠ざける

机をひとつ挟んだ向こう側にいるのに、心はまるで遠い。

窓から差し込む夕陽が
先生の綺麗な横顔をゆらりと照らす

「先生、…」

私の教科書を押さえる指先

触れたいと思った。

「…」

一瞬重なった視線はすぐに逸され、スッと引き抜かれた先生の手に触れようとした私の右手は宙を掴む。

パラパラと教科書のページが閉じられていく

あーあ
ほら、まただ。

「次さっきのページの2問目解いてみて」
「……はい」

こんな応用問題なんかより、私にとっては先生とのことのほうがよっぽど難しい。

窓の外を眺める先生の

生ぬるい風に靡く柔らかい髪の毛まで
私の中に閉じ込めておきたいとさえ思う。

私はずっと先生との距離を縮められないまま
もう夏はすぐそこまで来ている。