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季節は夏に移り変わった。
一日中雨が降っていたある日
ふと アサヒくんってこういう日は何をするんだろうと気になった。
学校でも自習時間ばかりの生活に、息が詰まりそうで仕方ない私にとって
アサヒくんと過ごす時間はまるで別の世界にいるようだった。
大袈裟に聞こえるかもしれないけど、アサヒくんといる時にしか感じられない心地良さが私は本当に好きだった。
止みそうにない雨が傘を打ちつける音を聞きながら、いつもの河川敷へと歩みを進める。
「今日は来ないかと思ってた」
「私が？」
「うん」
「どうして？」
「いや、なんていうか…来てほしかったのかも」
開口一番珍しいことを口にしたアサヒくん。
いつも会話の8割は私が話しているくらい彼は口数が少ないのに。
来てほしかったなんて、そんなこと思ってもらえてると思わなかったのに。
「…雨の日、アサヒくんはどうやって過ごすのかなーって、思って」
彼は私の言葉に
静かに目を伏せた。
「雨の日はただここに来てぼーっとしてるんだ」
「…そうなんだ」
「でも、今日は特別にカメラも持ってきた」
傘をさしながら器用にカメラを取り出すアサヒくん。
「一枚だけ撮りたいんだ」と石段から立ち上がって振り返り、カメラの抜け殻のようになった彼のスクールバッグにレンズを向けた。
「バッグ濡れちゃうよ？」
「うん」
短く返事をした彼は少し時間をかけてカメラを構え、本当に一度だけカシャ、とシャッターを切ると顔の前からカメラを下ろした。
私は彼が撮る写真を何度か見せてもらったことがある。
景色や物ばかりを撮っていたけれど、どれを何回見ても飽きないほどの魅力があった。
このまま展示会とか出せちゃうんじゃない？と笑う私に、少し笑い返してくれたりして。
「アサヒくんってさ、夢とかある？」
「夢？」
「そう。これになりたいなーとか」
「…叶えてから知ってほしいかな」
何気なく聞いたことだったけど
彼の眼差しは真剣そのもので。
少し遠い存在に感じてしまった。
「アサヒくんの夢が叶ったとして、そしたらそれって私も知れるの？」
「そうなれるように頑張るよ」
うん、と答えるしかなかった。
頑張れと言ってしまったら、彼は本当にどこかへ行ってしまいそうだったから。
「Aちゃん、」
「…うん？」
しばらくの沈黙を破ったアサヒくんは、
熱っぽい視線で私を見つめてた。
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作者名：藍 | 作成日時：2023年11月1日 14時
